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【壊憲・改憲ウォッチ(3)】「教育無償化(充実化)」「合区解消」について

2022年3月2日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】はじめに

「壊憲・改憲ウォッチ(1)」で、自民党・公明党・日本維新の会・国民民主党が主張する改憲案は、

①法律で対応可能:環境権、データ基本権、教育無償化、参議院の合区解消
②危険・無謀:自衛隊明記の憲法改正、緊急事態条項、憲法裁判所、統治機構改革
③税金の無駄遣い:国会議員の任期延長、オンライン出席

と指摘しました。

また、前回の「壊憲・改憲ウォッチ(2)」では「データ基本権」について論じましたので、今回は①の中の「教育無償化」「参議院の合区解消」について紹介します。

【2】 教育無償化(充実化)

日本維新の会や自民党は、憲法を改正して教育の無償化(充実化)を主張しています。「能力があるにもかかわらず経済的事情により高校や大学に進学できない子どもが出ないようにするために憲法を改正すべき」と言われると、納得する人も多いかもしれません。ただ、教育の無償化(充実化)のために憲法改正が必要でしょうか?

ずっと言われていることを示すためにわざと古い教科書から紹介しますが、たとえば憲法の一般的な教科書では「教育を受ける権利」の内容として、「国は、教育制度を維持し、教育条件を整備すべき義務を負う」と書かれています(芦部信喜『憲法第4版』(岩波書店、2010年)258頁)。憲法26条の「教育を受ける権利」は、経済的理由により教育を受けられない子どもが出ない政治をすることを国の義務としています。

教育無償化(充実化)はそもそも憲法26条の「教育を受ける権利」の要請です。憲法改正の必要は全くありません。経済的事情により高校や大学に進学できない学生がいるというのは憲法のせいではなく、「教育を受ける権利」を実現させる政治をしない政治家たちの責任です。

【3】 合区解消

いまの参議院選挙は「都道府県」を選挙区としてきたため、人口の関係で一票の価値に格差が生じます。「一票の格差」を解消するため、2016年7月の参議院選挙では、「徳島県」と「高知県」、そして「鳥取県」と「島根県」を一つの「合区」にして選挙を実施しました。こうした「合区」では参議院選挙の際に国会議員を選出できない都道府県が出ます。そこで、各県から一人の参議院議員を出すためとして、自民党は憲法改正を主張しています。

ただ、「合区」を解消するためなら「公職選挙法」などを改正するだけで可能です。自民党はもっともらしいことを言っていますが、「合区」解消のための憲法改正は、地方に強い選挙基盤を持つ自民党に有利な選挙制度をつくるための憲法改正です。

そのため、『日経新聞』2018年2月20日付社説は「まるで自民党の自民党による自民党のための憲法改正である。同党憲法改正推進本部がまとめた選挙制度に関する改憲案はあまりに自民党に有利な制度設計であり、到底受け入れがたい」と批判します。自民党擁護の姿勢が強い『産経新聞』2018年2月21日付社説すら、「党利を図っている」と自民党を批判しています。

【4】おわりに

以上、自民党や日本維新の会が主張する「教育の無償化」(充実化)や「合区解消」の問題点を指摘しました。「教育を受ける権利」(憲法26条)は、経済的事情で高校や大学に進学できない子どもが出ない政治を政治家たちに求めています。「教育を受ける権利」の実現は憲法改正ではなく、憲法理念の実現が必要なのです。憲法改正国民投票には850億円かかりますが、それこそその費用を「教育の充実」のために使うほうが良いのではないでしょうか?

合区解消に関しても、自民党に有利な選挙制度を設けるために850億円もの私たちの税金を使って憲法を変えることに賛成しますか?

「環境権」も、憲法を改正しなくても「法律」や政策によって実現することは可能です。「環境権」の実現のために憲法改正は必要ありません。

追記:極めて残念ですが、プーチン・ロシアはウクライナを侵略しました。この問題については「市民連合」ウェブサイトに掲載された「ロシアのウクライナ侵略をめぐって飯島 滋明(名古屋学院大学教授、憲法学・平和学) | 市民連合 (shiminrengo.com)」をご覧ください。