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【壊憲・改憲ウォッチ(19)】敵基地攻撃能力(反撃能力)と軍事費(防衛費)の大増額について

2022年12月18日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

1 はじめに

2022年12月16日、岸田自公政権は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の安保3文書を閣議決定しました。「国家安全保障戦略」18頁、「国家防衛戦略」10頁などでは「敵基地攻撃能力」(反撃能力)を持つとされました。

「防衛力整備計画」30頁では、軍事費も「2023年度から2027年度までの5年間」に「43兆円程度」とされました。

「国家安全保障戦略」19頁では、2027年度には「現在の国内総生産(GDP)の2%に達するよう、所要の措置を講ずる」とされました。

ロシアのウクライナ侵略、中国の脅威などを考え、「敵基地攻撃能力」を持ち、軍事費を増額させるのは必要と考える人もいると思います。

自民党や公明党だけでなく、日本維新の会や国民民主党も「敵基地攻撃能力の保有」や「軍事費大増額」に賛成しています。

敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や軍事費の大増額には、たとえば以下の問題があります。

2 敵基地攻撃能力(反撃能力)と軍事費の増額の問題点

(1)敵基地攻撃能力とは

「敵基地攻撃論」とは、日本が攻撃されたわけではないが、日本が攻撃されそうになった際には先に攻撃するという議論です。1956年以降、歴代日本政府はそう説明してきました。

『時事通信』2022年1月30日付でも、「他国領域内からミサイルを撃たれる前に発射拠点や司令部を攻撃する」と説明されています。

日本が先に外国を攻撃したら、国際社会からどう評価されるでしょうか?

(2)実際に「敵基地攻撃」をしたらどうなるか

現在、ロシアはウクライナを侵略しています。

ロシアのウクライナ侵略は国際法的にも人道的にも決して許されませんが、万が一、ウクライナがロシア国内の基地などに反撃すれば、ロシアはどう対応するでしょうか?

考えただけでも恐ろしい事態、ロシアは核攻撃に踏み切るかもしれません。

そして仮に、先に日本が外国の基地を攻撃したらどうなるでしょうか? 相手国のミサイル発射拠点をすべて攻撃しない限り、当然、日本も相手国から攻撃されます。

相手国もかなりの敵愾心を持ち、日本に対する核攻撃の可能性も生じます。

こうした「敵基地攻撃能力」を持つべきでしょうか?

(3)アメリカの戦争に加担する可能性

安倍自公政権や岸田自公政権は、「存立危機事態」の際にも「敵基地攻撃は可能」と主張します。

「国家安全保障戦略」18頁でも同様の主張がされています。

簡単に言えば、たとえばアメリカが攻撃されれば、日本が攻撃されなくても「日本の存立が脅かされる」(=存立危機事態)との口実で、自衛隊が先に外国を攻撃できることになります。

「存立危機事態」の際に「敵基地攻撃」が可能とされたら、アメリカの戦争に日本が加担し、先棒を担ぐ危険性が高くなります。

実際、アメリカはベトナム戦争などで、アメリカ兵士の犠牲者を出さないために外国に海外派兵を要求し、そうした外国兵をアメリカ兵の代わりに戦わせてきました。

2022年12月16日付の『ワシントン・ポスト』には、アメリカの地域的軍事戦略を強化するとして、岸田自公政権の安保3文書の閣議決定をバイデン政権が歓迎している旨の記事が掲載されています。

アメリカの戦争でアメリカ軍の代わりに自衛隊が先に外国を攻撃することを認めるのでしょうか?

(4)「抑止力」になる?

「国家防衛戦略」5頁では、「自国を守るためには、力による一方的な現状変更は困難であると認識させる抑止力が必要」とされています。

敵基地攻撃能力の保有や大軍拡が「抑止力」になるのでしょうか?

北朝鮮は自衛のためとしてミサイル発射訓練を繰り返していますが、北朝鮮が「敵基地攻撃能力」を持っているから、北朝鮮を攻撃しないという対応を日本政府がしているでしょうか?

むしろ北朝鮮のミサイル発射拠点を先に攻撃するという「敵基地攻撃能力」を持つという政策を日本政府じたいが採っています。

中国とロシアは日本近海で共同の軍事訓練をしていますが、日本政府は「これらの国とは武力で対応しない」となっているでしょうか?

むしろこれらの国々の行為を口実に、日本も軍拡や日米共同訓練を加速させてきました。

敵基地攻撃能力の保有や大軍拡は「抑止力」どころか、ロシアや中国、北朝鮮の軍拡や共同訓練の口実を与え、軍拡や軍事訓練を加速させる危険性があります。

(5)軍事費大増額の問題点(1) 適切でしょうか?

日本がGDP比2%以上に軍事費を増額しても中国に対抗できるのでしょうか?

『東京新聞』2022年4月26日付では、アメリカの軍事費7320億ドル、中国の軍事費2610億ドルに対し、日本の軍事費は476億ドルと紹介されています。たとえ日本の軍事費を2倍にしても952億ドル。これで中国に対抗できるのでしょうか?

それとも中国に対抗するため、2%以上の軍事費を費やすべきと考えるでしょうか?

『日本経済新聞』2022年10月22日付によれば、中国との関係を断った場合、年間約14兆円の損失、トヨタ自動車が稼ぐ純利益の約5年分が失われるとの試算を紹介しています。

日本の食料自給率は約38%、日本の食卓に並ぶ野菜や加工魚の5割超は中国産です。

こうした状況で中国との戦争を考えることが現実的でしょうか?

(6)軍事費大増額の問題点(2) 国民・市民のことを考えているの?

『共同通信』2022年8月17日付では、「コロナの影響 自殺者8000人増 20代女性が最多 東大試算」との記事が掲載されています。

仲田泰祐東大准教授(経済学)は「男性より非正規雇用が多い女性は経済的影響を受けやすく、若者の方が行動制限などで孤独に追い込まれている可能性がある」と述べています。

軍事費を大増額させるより、自殺者を出さないための政策にお金を使うべきではないでしょうか?

岸田首相や自民党や公明党は国民・市民のための政治をしているのでしょうか?

3 おわりに

敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有と軍事費の大増額の問題点を指摘しました。

有名な音楽家である坂本龍一さんは以下のように述べています。

「戦争は外交の失敗と定義されている。攻めてきたらどうするんだという人がいるが攻められないようにするのが日々の外交の力。それを怠っておいて軍備増強するのは本末転倒ですね」。

沖縄の玉城デニー知事も12月14日の沖縄の県議会で、「戦争をしないことが住民を守る一番の政治的手段」等の答弁をしています。

自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党の政治家たちは「敵基地攻撃能力の保有」を主張し、先に外国を攻撃できる国に日本を変えようとしています。

最近、自民党などは「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換えています。

日本が先に外国を攻撃する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と主張する自民党の対応は、国民・市民を欺くものであり、この点でも問題です。

坂本さんや玉城知事が言うように、政治家の役割は戦争にならないように絶えず外交的努力をすることではないでしょうか。

そもそも、日本が先に外国を攻撃することに道を開く「敵基地攻撃能力の保有」は、「陸海空軍その他の戦力」の保持を禁止した憲法9条2項、「敵基地攻撃能力の行使」は、「国際紛争を解決する手段」としての「戦争」や「武力の行使」を禁止する憲法9条、憲法前文等に違反します。

コロナ感染や物価高で多くの市民が生活に困難な状況にある中、軍事費を大増額させることは「幸福追求権」(憲法13条)や「生存権」からも正当化できません。