ロシアによるウクライナ侵攻と自民党改憲案
戦争をさせない1000人委員会事務局長代行の清水雅彦さん(日本体育大学教授)より、ロシアのウクライナ侵攻の背景にある主張を批判するとともに、それらと通底する自民党改憲案の持つ危険性についての論考を寄せていただきました。
ロシアによるウクライナ侵攻と自民党改憲案
清水雅彦(日本体育大学・憲法学)
2月24日、ロシア軍がウクライナに軍事侵攻した。プーチン大統領は、2月21日に「独立」を承認した「ドネツク人民共和国」及び「ルガンスク人民共和国」のロシア系住民の保護や、両「共和国」防衛のための集団的自衛権行使を理由にこの軍事侵攻を正当化している。確かに、国連憲章51条は国連加盟国の個別的又は集団的自衛権の行使を認めているが、 それは「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」のことである。しかし、ロシアが攻撃を受けたわけではないから個別自衛権の発動はできないし、また、ロシア以外が国家として認めていない両「共和国」防衛のための集団的自衛権の発動という説明も無理がある。今回のロシアの行為は、加盟国の主権平等、国際紛争の平和的手段による解決、武力による威嚇又は武力の行使の制限を基本原則とする国連憲章に違反するものであり、ロシアは直ちに軍事侵攻をやめ、ウクライナから撤退すべきである。
また、今回のウクライナ侵攻から、日本における改憲論の危険性について2点考えたい。
1点目は、「ロシア系住民の保護」論である。自衛隊法3条は、「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし」と、自衛隊を国の安全を保つための組織とすることで、基本的に自衛隊の活動も国内に限定してきた。しかし、2018年の自民党4項目改憲案の9条の2では、自衛隊を「国及び国民の安全を保つため」の組織にしている(自民党の2005年「新憲法草案」も2012年「日本国憲法改正草案」も同様の発想。後者の25条の3には国による在外国民保護規定がある)。従来の政府解釈によれば、自衛隊は9条2項で保持が禁止された「戦力」(=軍隊)ではなく、自衛のための必要最小限度の「実力」にすぎないので、他国の軍隊とは異なり、海外派兵はできず、専守防衛に徹し、集団的自衛権行使はできないとしてきた。かつて、ナチス・ドイツも「ドイツ系住民の保護」を理由にポーランド侵攻を正当化したが、自民党改憲案(日系住民は対象外とはいえ)は海外にいる国民保護のために自衛隊の海外派兵を正当化するもので、ウクライナ侵攻の論理と全く同じとはいえないが、大変危険であるといえる。
2点目は、集団的自衛権論である。国連憲章の基になる1944年のダンバートン・オークス提案には集団的自衛権が明示されていなかったが、国連憲章に盛り込まれることになった。その後、米ソ冷戦が始まると、この規定を使ってNATOやワルシャワ条約機構などの軍事同盟が締結される。また、集団的自衛権行使の実例を見ると、アメリカによるベトナム戦争や湾岸戦争、ソ連による東欧民主化への介入やアフガニスタン侵攻など、大国が関係国の内乱や内戦に干渉したり、小国へ侵攻・侵略するときに悪用してきた。安倍政権は、国連憲章で認められているからという理由もあげ、2014年に集団的自衛権行使を容認する閣議決定を行ったが、国連加盟国に個別的自衛権の行使を認めるのはやむをえないとしても、集団的自衛権の行使容認については再考すべきだったのではないだろうか。冷戦の終結によりワルシャワ条約機構は解散したが、NATOは逆に拡大したのも問題であり、この拡大路線がなければ今回のロシアとウクライナの関係も違ったものになっていたと思われる。4項目改憲の次に自民党が考えているのは全面的改憲であるが、2012年の自民党改憲案では全面的な集団的自衛権行使可能な国防軍を設置する規定がある。「自国民保護」を名目とした海外派兵や全面的な集団的自衛権行使可能な憲法を持とうとしているのが自民党であるが、日本はそのような国を目指すべきではない。
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