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【壊憲・改憲ウォッチ(54)】「外国人差別」と自民党・参政党・日本保守党など

2025年7月16日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】 外国人犯罪に関する保守政党などの発言

外国人犯罪が増えているなどとして、取締り強化を主張する政党があります。

たとえば2025年5月28日、自民党の小野寺五典政調会長はクルド人と住民との摩擦が問題となっている埼玉県川口市を視察した後、「秩序を守れない外国人とは共生できない」などと発言しました。

6月23日、参政党の吉川里奈衆議院議員は那覇市で「今、外国人犯罪、重要犯罪が増加している」、「外国人の不起訴率はなぜか右肩上がり」と発言しました(『沖縄タイムス』2025年7月10日付)。

7月3日には参政党神谷代表は、「いい仕事につけなかった外国人が集団で万引きなどをして大きな犯罪が生まれている。日本の治安が悪くなる」等の発言をしました。

日本保守党ですが、2025年7月5日には百田尚樹代表が福岡市で「日本の文化は守らない。ルールは無視する。日本人を暴行する。日本人のものを盗む」などと演説しました。

同じく日本保守党の有本香事務局長は7月9日、「一部の外国人による治安を乱す行為、女性に対する性暴力は顕在化している」と発言しました。

【2】 外国人犯罪について

ただ、外国人犯罪が増えているという発言、正確かどうか等、問題があります。

(1)実際に増えているかは疑問

日テレNEWS(2025年7月12日付)は以下の指摘をしています。

「実際のデータを見ると、外国人による犯罪は2005年をピークに下がり続けています。2023年に少し上がっていますが、検挙件数の割合でみると、ここ10年の平均はだいたい5%くらいです」。

多くの記事で指摘されているように、統計を見る限り、必ずしも外国人犯罪の割合が増えたと断言できるわけではありません。

(2)なぜ在日アメリカ軍人等の犯罪には何も言わない?

自民党、参政党、日本保守党の政治家たちは、外国人犯罪を問題にしながら、在日アメリカ軍人等の犯罪をほとんど口にしません。
 
たとえば「2012年から2020年8年間で沖縄での米兵性犯罪949件」です(『沖縄タイムス』2025年5月7日付)。

「外国人犯罪」「外国人が優遇されている」というのであれば、在日アメリカ軍人等の犯罪こそ問題にすべきです。

在日アメリカ軍人等の日本での法的地位について定めた「日米地位協定」17条では、米軍人等の「公務中の犯罪」についてはアメリカ側が第一次裁判権を持ちます。

なぜ日本で起きた事件を日本で裁けないのでしょうか? これこそ「外国人優遇」であり、直ちに改定を要求すべきではないでしょうか?
 
一方、「公務外の犯罪」については「第一次裁判権」は日本が持ちます。ただし起訴までは日本に被疑者を引き渡す必要はありません。

さらに1953年には日本政府がアメリカと「裁判権放棄密約」を交わしていたことが明らかになっています。

「外国人優遇」の極みであり、「裁判権放棄密約」はあり得ません。

さらに性犯罪の被害者には直ちに精神的ケアが必要ですが、アメリカ側に被害者支援を実現させる規定も「日米地位協定」にはありません。

自民党小野寺五典政調会長は「秩序を守れない外国人とは共生できない」などと言っていますが、それならなぜ防衛大臣の時にアメリカ兵犯罪に対応しなかったのでしょうか?

(3)日本の税金で外国人を優遇する?

「日本人から搾り取った税金を外国に流すのは許せない」等との発言もします。

そうであれば、やはり軍事費大増額こそ問題にすべきです。

2022年12月、岸田自公政権は「安保3文書」で、2023年度から2027年度までの5年間で軍事費を実質60兆円にまでにする大増額を決定しました。

年間5兆円もの軍事費大増額は、アメリカからの要求です。

大増額した軍事費で、アメリカの古い兵器を買わされているのです。
 
さらに年間2000億円近くもの「思いやり予算」がアメリカ軍に支払われていますが、その内訳の一部を紹介します。

【職種とその最高年収】

バーテンダー(76人)・・・549万円
クラブマネージャー(25人)・・・714万円
ケーキ飾り付け職人(5人)・・・476万円
娯楽用ボートオペレーター(9人)・・・612万円
宴会用マネージャー(9人)・・・576万円
ゴルフ整備員(47人)・・・579万円

日本にいるアメリカ兵のためにこうした税金を使うこと、どう思いますか?

「日本を取り戻す」「日本人ファースト」などと言うのであれば、自民党、参政党、日本保守党などは真っ先に「日米地位協定」の改定、「軍事費大増額の削減」「思いやり予算の廃止」に全力でとりくむべきではないでしょうか?

「日本を取り戻す」「日本人ファースト」は党勢拡大や選挙目的、口先だけでしょうか?

【3】 外国人に対するフェイクニュースを流す政治家たち

たとえば参政党の神谷代表は7月6日、フジテレビの「日曜報道 THE PRIME 」で、「外国人からは相続税がとれない」等の発言をしました。

この発言は誤りです。

国税庁によれば、日本国内の土地や建物などは課税対象となり、税を支払うことになります。「登記」によって不動産の移動は把握でき、差押えでも対応できます。

日本にある財産であれば、「差押え」ができることすら参政党神谷党首は思いが至らないのでしょうか?

2025年2月、石破自公政権が高額療養費の自己負担額を引き上げる決定をした時、がん患者などから大反発が起きました。

その議論で国民民主党玉木雄一郎氏は、外国人による不適正利用に言及しました。

ところが2018年1月から2023年5月の間、在留資格の取消や給付費の返還を求めるといった不適切利用の事例はありません(『朝日新聞』2025年3月17日付〔電子版〕)。

このレベルのフェイクニュース、根拠のない情報を政治家が流し、外国人差別を広めています。

【4】 外国人との共生がないとなりたたない「日本」

確かに日本人と外国人にはマナーなどに違いがあり、摩擦が起きることもあるでしょう。

ただ、外国人が日本に来なくなったらどうなるでしょうか?

多くの外国人旅行客が日本に来ることで、日本の経済が潤っています。
 
労働力不足、人口減少が進む日本には多くの外国人が必要です。

にもかからず、外国人を排斥するような動きが日本で強まり、日本に外国人が来なくなれば、日本の経済や社会が成り立たなくなる危機すら想定されます。

日本社会が成り立つためには、外国人との共生が必要です。

日本社会のこうした実態も踏まえず、外国人差別を主張する政党に日本の政治をまかせて大丈夫か、それで本当に日本人も幸せな生活を送ることができるか、考えてください。

なにより「日本を取り戻す」「日本人ファースト」と本当に思うのであれば、「外国人」を卑屈なまでに優遇する「日米地位協定」の改定こそ、全力でとりくむべきです。