【壊憲・改憲ウォッチ(56)】参政党憲法案について
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
【1】憲法とは何か?
2025年5月、参政党は2年以上の議論の末、「参政党が創る 新日本憲法(構想案)」を公表しました(以下、「参政党憲法案」とします)
率直な感想ですが、内容も矛盾しています。
たとえば参政党憲法案では、「公文書は、……国民が理解し易い文書で記さなければならない」(4条4項)のですが、「国體」(前文など)、「天皇のしらす」など、「理解し易い」とは言えません。
「憲法」についても正確に理解していないという感想を持ちます。
「学校給食は、……地域の食材を用い」(参政党憲法案9条5項)であれば、「地域の食材」を使わない学校給食は「憲法違反」とされ、違憲訴訟を起こすことも可能になります。
たとえば「地域」とはどこまでか、参政党憲法案ではこうした議論を、場合によっては最高裁がすることになります。
「給食にどこの食材が使われたか」が憲法問題として議論されるべき事柄でしょうか?
【2】「書かれていないことはないこと」に ~「国民主権」「基本的人権の尊重」を明記しない参政党憲法案~
参政党憲法案を考えるに際しては、「書かれていないことはないもの」として扱われることを前提にすることが大切です。
たとえば2024年7月の東京都知事選挙では「掲示板ジャック」などの状況が生じました。
選挙ポスターの掲示板には犬や猫、裸の女性のポスターが貼られました。
「政見放送中に突然、服を脱ぎだし、胸元もあらわなチューブトップ姿になった」候補者も出ました(『読売新聞』2025年4月28日付〔電子版〕)。
選挙ポスターの掲示板にこうしたポスターを貼ること、政見放送で女性が服を脱ぐのはダメなのは「当たり前」だと思います。
しかし公職選挙法などでこうした行為の禁止が明記されていないため、規制できませんでした。
参政党神谷代表は「国民主権」は「当たり前」だから参政党憲法案に書かなかったと言っています。
しかし「掲示板ジャック」などの事例のように、「書かない」ことで「ない」ことにされる可能性があります。
そもそも憲法とは国の基本法である以上、「国民主権」を「当たり前」と考えているのであれば、憲法案に明記すべきでした。
2年も議論して、さらに弁護士などの法的知識がある人もいるのに憲法構想案に明記しなかったことじたい、「国民主権」を重視していないと見做されます。
一方、参政党憲法案では「国は、主権を有し、独立して自ら決定する権限を有する」(4条1項)とされています。
「国民主権」を明記せずに「国家主権」を明記した以上、「国民主権」を放棄して「国家主権」を基本原理としたことになります
「基本的人権の尊重」に関しても同じです。
参政党憲法案では「法の下の平等」(憲法14条)が削除されています。
「皇位」を「男系男子」に限定するなど、「女性差別」思想も参政党憲法案には明確に表れています。
参政党憲法案では「勤労の権利」(憲法27条)、「労働基本権」(憲法28条)も削除されています。
ストライキを禁止する法律、そもそも労働組合結成を禁止する法律も憲法違反とならない可能性があります。
「残虐な刑罰及び拷問の禁止」(憲法36条)も削除されていることから、公務員による拷問も憲法違反とならなくなります。
「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」(憲法38条2項)、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」という「自白法則」も削除されています。
参政党憲法案では警察が拷問して自白させ、その自白だけで有罪としても憲法的に問題ないとされます。
最近でも拷問、警察官の問題ある捜査による「えん罪」が明らかになっています。
・死刑が確定したものの再審で無罪となった「袴田事件」(2024年10月9日無罪確定)
・国家賠償請求訴訟で警察官が裁判で事件を「ねつ造」と証言した「大川原化工機事件」(2021年7月30日に検察官が起訴取消)
・12年間服役したものの、再審で裁判所が「事件性を認めることができない」旨の判決で無罪が確定した湖東記念病院事件(2020年4月2日無罪確定)
・21歳の時に逮捕されて7年間服役、38年間も犯人扱いされてきた「福井県女子中学生殺害事件」(2025年8月1日無罪確定)
参政党憲法案で多くの人権規定が削除されたことも、参政党が「人権」を重視していないことを明らかにしています。
【3】「戦争する国づくり」は明記する「参政党憲法案」
一方、「戦争する国づくり」は明記され、「平和主義」も放棄されています。
参政党憲法案20条1項では、「国は、自衛のための軍隊(以下、「自衛軍という」)を保持する」とされています。
「自衛のため」という文言では、「集団的自衛権」の行使も可能になります。
最近ではロシアが「集団的自衛権」を口実にウクライナに侵略しように、大国が国際法違反の武力行使をする口実が「集団的自衛権」でした。
参政党憲法案5条2項では、「国民は、子孫のために日本を守る義務を負う」とされています。
「日本を守る義務」として「徴兵制」や「民間人の戦地派遣」も可能になります。
「教育勅語など歴代の詔勅、愛国心、……は、教育において尊重されなければならない」(参政党憲法案9条3項)も、「戦争する国づくり」のための規定になります。
敗戦までの日本では、「国のために命を投げ出すのは当然」という教育が行われました。
そうした思想を植え付けるため「愛国心教育」が行われ、教育勅語が利用されました。
敗戦後、「基本的人権の尊重」が基本原理とされた「日本国憲法」下では、「国のために命を投げ出すのは当然」といった思想注入教育は否定されました。
ところが教育勅語や愛国心教育の尊重を明記する参政党憲法案では、「国に命をささげるのは当然」といった思想注入教育が再び可能になります。
【4】主権者としての判断を
日本国憲法では「基本的人権の尊重」「国民主権」「平和主義」が基本原理とされています。
一方、参政党憲法案では「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」が放棄されています。
「国民主権」「基本的人権」を重視せず、「戦争する国づくり」をめざす参政党を支援することが本当に私たちや将来の世代の世代の幸せになるのか。
将来の世代が幸せで平和な生活を送るためにも、いま、私たちが参政党の本質も適切に見極め、「投票」などで意志を示すことが重要です。