【壊憲・改憲ウォッチ(58)】「ジジイ、噓ついてやがる」
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
タイトルは、731部隊の元隊員であった清水英男さんにSNSで投げかけられた発言です。
「731部隊」は中国人やロシア人の捕虜などを「マルタ」と呼び、生体解剖などの非人道的行為をした部隊です。
「マルタ」と呼ばれた「生体実験」の外国人犠牲者は少なくとも3000人と言われています。
清水英男さんが731部隊の元隊員であることはアメリカの公文書でも確認できます(『朝日新聞』2025年8月13日付)。
清水英男さんは1945年4月に14歳で「見習い技術員」として旧満洲のハルビンに渡りました。
7月ごろ、731部隊本部2階の「標本室」に入りました。
心臓、肺、脳、体内に胎児が見える女性。
部屋には人体実験された「マルタ」の標本瓶が無数にあったと言います。
「しっかり見ろ」と上官に言われ、ホルマリンの臭いで目が痛む中、涙を流しながら見ました。
標本室に入ったのは一回だけですが、「見たものは今も頭の中にある。忘れようと思っても忘れられない」と清水さんはその苦痛を告白しています。
そして「731部隊のような人の道を外れたことが再び起きたら大変だ。体が動く限り証言を続けたい」として、731部隊の体験談を話しています(『時事通信』2025年8月13日付)。
その清水さんにSNSでは「ぼけ老人」「迷惑高齢者」などの書き込みがなされています(『朝日新聞』2025年8月13日付)。
学習院大学の武井彩佳教授(ドイツ現代史)は、史実を否定したり歪める「歴史修正主義」に関して、「オンラインで簡単にフェイクニュースが創られる現代」では、「事実に基づかない発言は人を傷つける恐れ」があると述べています(『琉球新報』2025年8月16日付)。
ドイツでヒトラーを讃えたり、「アウシュビッツはなかった」などと発言すれば「民衆扇動」( die Volksverhetzung )の罪で処罰されます(ドイツ刑法130条)。
ドイツで「歴史修正主義」は、「公共の平穏を乱す」とともに、「人間の尊厳への攻撃」( Angriff gegen die Menschenwürde )とされます。
清水英男さんも「人体実験はねつ造だ」「ジジイ、嘘ついていやがる」という書き込みを見て、「怒りがわいた」と言います(『朝日新聞』2025年8月13日付)。
悲惨な戦争体験をされた人に対して「嘘つき」「ジジイ」「ねつ造」とのSNSの書き込み、みなさんはどう思いますか?
「歴史修正主義」は単なる過去の歴史認識の話ではありません。
悲惨な戦争を体験された人や家族を再び傷つけ、侮辱することから、まさに「今」の問題です。