【壊憲・改憲ウォッチ(60)】自衛隊に関する「言論封殺」に抗議する法律家有志声明(142名賛同)の公表
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
2025年10月8日、沖縄県議会で「自衛隊および隊員とその家族に対する差別的な風潮を改め、県民に理解と協力を求める決議」が可決されました。
「差別」は「個人の尊厳」(憲法13条)を侵害する行為であり、断じて認められるべきではありません。
しかしこの決議は「自衛隊」の組織的活動への意見表明を「差別」と曲解し、自衛隊に関する発言を封じ込める危険性があり、アメリカ憲法などでも「優越的地位」を有するとされる「表現の自由」(日本国憲法21条)を封じ込める点で、「民主主義」「国民主権」から問題です。
また、この決議は、とりわけ沖縄戦を体験された沖縄県民の気持ちを無視し、「人格権」(憲法13条)を侵害します。
さらには基地周辺の沖縄県民の「平和的生存権」(憲法前文)等を軽視し、「法の下の平等」(憲法14条)等を曲解して「表現の自由」(憲法21条)「国民主権」(憲法前文、1条)を掘り崩す危険性を有する決議です。
そこで10月10日、10・8決議を批判する緊急記者会見を実施しました。
2025年10月14日10時段階で、沖縄県の弁護士・法学者9人以上を含め、全国142人以上の法律家が賛同しています
10月10日の記者会見で配布された声明を1か所修正した上で公表します。
自衛隊に関する「言論封殺」に抗議する法律家有志声明
近時、中谷防衛大臣が市民の抗議活動を「過度な抗議活動」「妨害行為」などと批判したり、自民党沖縄県議が市民活動を「職業差別」などと批判する事例が出ている。中谷防衛大臣の発言や自民党沖縄県議の批判は「言論封殺」に道を開きかねない極めて危険な言動であり、「国民主権」「表現の自由」が保障されている日本国憲法下での政治家の言動として決して容認されてはならない。今回は沖縄での抗議活動及び反対の意思表明が対象になっているが、これらを「沖縄の問題」として放置すれば、日本全国の反戦等の言動も「妨害活動」「職業差別」等として封じられ、「表現の自由」「国民主権」が危機に陥る危険性がある。そうした事態を私たち法の専門家有志は看過できないと考え、本声明を表明する。
国のあり方を最終的に決定する権利は国民にあるという「国民主権」からすれば、主権者である「国民」は公的事項について自由に意見を表明できる。そのため憲法21条では「表現の自由」も保障されている。「国民主権」は国の根本原理として近代立憲主義憲法では広く採用されており、日本国憲法でも基本原理とされている(前文、1条)。にもかかわらず、大臣や自治体議員が主権者である「国民」の言動を批判することが「国民主権」「表現の自由」との関係でそもそも正当化できるのか。
無論、「表現の自由」といえども無制約ではなく、他者の権利・自由を侵害する行為は認められない。この点、実際に戦争になれば軍事拠点が攻撃対象になるのは軍事的常識であることから、自衛隊強化や日米軍事訓練に反対する地域住民の活動は「平和的生存権」(憲法前文等)の保障を目指す活動として当然、憲法上の保障を受ける。
沖縄の「第70回全島エイサーまつり」に「第15旅団エイサー隊」が参加すること(以下、「当該参加」とする。)には市民の抗議活動も行われている。こうした市民の抗議活動に対して自民党県議は「職業差別」などと批判している。自衛官が個人で参加する際、自衛官という理由で参加を拒否するのであれば差別の問題が生じる。しかし「当該参加」の際、「第15旅団」の名称を使用していること、第15旅団がX(旧ツイッター)で謝意を示している以上、第15旅団の組織的宣伝活動と見做されるのは当然である。自衛隊の組織的宣伝活動に国民が意見を表明することは国民主権国家では当然認められるべきであり、「職業差別」との批判は極めて不当である。さらに「エイサー」は先祖の霊を供養する伝統行事であり、沖縄戦で亡くなられた人たちを弔う意味もある。沖縄戦では日本兵による直接の住民殺害は298人、壕内で泣く乳幼児の殺害を強要するなどの「間接殺害」を含めると4766人以上になる(『琉球新報』2025年7月10日付)。沖縄戦で沖縄県民の犠牲者が増えたのは、住民が多い南部に第32軍が撤退したためだが、沖縄県民の批判があっても第32軍司令官の辞世の句を第15旅団はHPに掲載しつづける等、第15旅団が第32軍を好意的に評価している事情も窺える。上記事情で「当該参加」に拒否感を示す沖縄県民もいる。そうした心情は人格権(憲法13条)で保障されるべき行為である。
以上、自衛隊活動に対する上記の県民活動は憲法で保障された権利・自由の正当な行使である。主権者としての正当な表現行為に対して「過度な妨害活動」「妨害活動」と防衛大臣が批判したり、自民党県議が「職業差別」等と批判することは、国民主権国家では当然認められる主権者の正当な表現活動に対する「言論封殺」に道を開きかねず、「国民主権」「表現の自由」から断じて認められない。私たち法律家有志は中谷防衛大臣や自民党沖縄県議の言動に強く抗議すると同時に、発言等の撤回を強く求める。
【呼びかけ人】
飯島滋明(名古屋学院大学。憲法学・平和学)
内田雅敏(弁護士。四谷総合法律事務所)
大江京子(弁護士。東京東部法律事務所)
加藤 裕(弁護士。沖縄合同法律事務所)
清末愛砂(室蘭工業大学。憲法学・ジェンダー法学)
南 典男(弁護士。ピープルズ法律事務所)
【賛同法律家】
愛須勝也(弁護士。京橋共同法律事務所)
青野 篤(大分大学。憲法学)
秋山健司(弁護士。京都第一法律事務所)
梓澤和幸(弁護士。東京弁護士会所属)
新垣 勉(弁護士。コザ法律事務所)
井口秀作(愛媛大学。憲法学)
池上 遊(弁護士。北九州第一法律事務所)
池宮城紀夫(弁護士。那覇第一法律事務所)
石河秀夫(弁護士。石河綜合法律事務所)
石口俊一(弁護士。石口俊一法律事務所)
石坂俊雄(弁護士。三重合同法律事務所)
石村 修(元専修大学教員。憲法学)
伊藤 真(弁護士。伊藤・呉法律事務所)
井上 啓(弁護士。井上啓法律事務所)
植野妙実子(中央大学名誉教授。憲法学)
上林惠理子(弁護士。弁護士法人FAS淀屋橋総合法律事務所)
内河惠一(弁護士。恵沢法律事務所)
内山新吾(弁護士。弁護士法人山口第一法律事務所)
浦野広明(立正大学法制研究所特別研究員。税法学)
榎澤幸広(名古屋学院大学。憲法学)
大井 琢(弁護士。そよかぜ法律事務所)
大江洋一(弁護士。堺法律事務所)
大木裕生(弁護士。広田法律事務所)
大久保史郎(立命館大学名誉教授。憲法学)
大久保賢一(弁護士。大久保賢一法律事務所)
大田恭子(弁護士。大田法律事務所)
大多和暁(弁護士。静岡法律事務所)
小笠原伸児(弁護士。京都法律事務所)
小笠原里夏(弁護士。はままつ共同法律事務所)
岡田健一郎(高知大学。憲法学)
岡田 尚(弁護士。桜木町法律事務所)
岡田正則(早稲田大学。行政法学)
奥野恒久(龍谷大学。憲法学)
奥田喜道(奈良教育大学。憲法学)
小口幸人(弁護士。南山法律事務所)
奥村一彦(弁護士。御所南法律事務所)
海部幸造(弁護士。東京南部法律事務所)
椛島敏雅(弁護士。椛島としまさ法律事務所)
上脇博之(神戸学院大学。憲法学)
神谷めぐみ(沖縄法政研究所特別研究員)
河上暁弘(広島市立大学広島平和研究所教授。憲法学)
北澤貞男(弁護士。北沢法律事務所)
木下智史(関西大学。憲法学)
木村夏美(弁護士。ビオス法律事務所)
倉田原志(立命館大学。憲法学)
古川健三(弁護士。弁護士法人りべるて・えがりて法律事務所)
小林 武(沖縄大学客員教授。憲法学)
児玉勇二(弁護士。児玉勇二法律事務所)
小松 浩(立命館大学。憲法学)
今 重一(弁護士。今法律事務所)
今野久子(弁護士。東京法律事務所)
近藤公人(弁護士。滋賀第一法律事務所)
齊藤園生(弁護士。さいとう法律事務所)
齋藤道俊(弁護士。弁護士法人とかち平野)
佐藤真理(弁護士。奈良合同法律事務所)
佐藤むつみ(弁護士。若葉町法律事務所)
佐々木光明(神戸学院大学名誉教授。刑事法)
佐藤由紀子(弁護士。佐藤由紀子法律事務所)
眞田章午(沖縄大学。行政法学)
澤藤統一郎(弁護士。澤藤統一郎法律事務所)
志田なや子(弁護士。まちだ・さがみ総合法律事務所)
志田陽子(武蔵野美術大学。憲法学)
城塚健之(弁護士。大阪法律事務所)
神保大地(弁護士。さっぽろ法律事務所)
清水雅彦(日本体育大学。憲法学)
秦 雅子(弁護士。東京共同法律事務所)
杉浦ひとみ(弁護士。東京アドヴォカシー法律事務所)
杉原悠記子(弁護士。広田法律事務所)
鈴木秀忠(弁護士。マーブル法律事務所)
関守麻紀子(弁護士。横浜合同法律事務所)
芹沢 斉(青山学院大学名誉教授。憲法学)
高木吉朗(弁護士。コザ法律事務所)
髙佐智美(青山学院大学。憲法学)
髙崎 暢(弁護士。たかさき・渡部法律事務所)
高橋利安(広島修道大学名誉教授。憲法学)
滝沢 香(弁護士。東京法律事務所)
武村二三夫(弁護士)
田中健太郎(弁護士。八十島法律事務所)
田中 俊(弁護士)
田中礼司(弁護士。弁護士法人山口第一法律事務所)
棚橋桂介(弁護士。フロンティア法律事務所)
谷脇和仁(弁護士。高知法律事務所)
田畑元久(弁護士。周南法律事務所)
髙良鉄美(琉球大学名誉教授。憲法学)
塚本和也(弁護士。渋谷法律事務所)
角田由紀子(弁護士。角田愛次郎法律事務所)
豊川義明(弁護士)
中川瑞代(弁護士。西東京ひの法律事務所)
長倉智弘(弁護士。長倉法律事務所)
中島茂樹(立命館大学名誉教授。憲法学)
長野真一郎(弁護士。大阪法律事務所)
中野麻美(弁護士。弁護士法人りべるて・えがりて法律事務所)
中谷雄二(弁護士。名古屋共同法律事務所)
中村博則(弁護士。田川第一法律事務所)
長峯信彦(愛知大学。憲法学)
永山茂樹(東海大学。憲法学)
仲山忠克(弁護士。ゆい法律事務所)
中村昌樹(弁護士。新都心法律事務所)
棗 一郎(弁護士。旬報法律事務所)
成澤孝人(信州大学。憲法学)
新倉 修(青山学院大学名誉教授(国際人権法・刑事法)・弁護士)
西 晃(弁護士。西晃法律事務所)
錦織 明(弁護士。錦織法律事務所)
二宮孝富(大分大学名誉教授。法社会学)
二瓶由美子(元桜の聖母短期大学。ジェンダー法学)
丹羽 徹(龍谷大学。憲法学)
根森 健(新潟大学名誉教授・埼玉大学名誉教授。憲法学)
橋本佳子(弁護士。東京法律事務所)
晴山一穂(専修大学名誉教授・福島大学名誉教授。行政法学)
久道瑛未(弁護士。早稲田リーガルコモンズ法律事務所)
広田次男(弁護士。広田法律事務所)
平井哲史(弁護士。東京法律事務所)
平山正和(弁護士。堺総合法律事務所)
福留英資(村井・吉野法律事務所)
藤木邦顕(弁護士。豊中総合法律事務所)
舩尾 徹(弁護士。東京南部法律事務所)
正木みどり(弁護士。関西合同法律事務所)
前原清隆(元長崎総合科学大学教員。憲法学)
松田幸子(弁護士。弁護士法人えいらく法律事務所)
松原幸恵(山口大学。憲法学)
松宮孝明(立命館大学。刑事法学)
三宅俊司(弁護士。三宅俊司法律事務所)
三宅孝之(島根大学名誉教授。刑事法学)
三宅裕一郎(日本福祉大学。憲法学)
宮腰直子(弁護士。ふなばし法律事務所)
宮坂 浩(弁護士。旬報法律事務所)
毛利正道(弁護士。法律事務所こんにちは)
本 秀紀(名古屋経済大学。憲法学)
守川幸男(弁護士。千葉中央法律事務所)
森 卓爾(弁護士。神奈川県弁護士会)
山添健之(弁護士。東京東部法律事務所)
安岡正義(大分大学名誉教授)
吉井千周(椙山女学園大学。法社会学)
吉川健司(弁護士。泉法律事務所)
吉田恒俊(弁護士。吉田恒俊法律事務所)
米倉洋子(弁護士。大塚市民法律事務所)
若尾典子(元佛教大学。憲法学)
渡辺 治(一橋大学名誉教授。政治学・憲法学)
(2025年10月14日10時段階、142名)
