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新型コロナウイルス感染症対策と憲法改正論議

2020年5月28日

戦争をさせない1000人委員会事務局次長の飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)より、「新型コロナウイルス感染症対策」を口実に、「緊急事態条項」の必要性を主張する動きを批判する論考を寄せていただきましたので、掲載します。

新型コロナウイルス感染症対策と憲法改正論議

                飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】新型コロナウイルス感染症対策と憲法改正論議

最近の新型コロナウイルス感染拡大を受け、自民党、公明党、日本維新の会の政治家たちは新型コロナ対策を名目にした憲法改正を主張している。コロナ感染を名目とする憲法改正論議には2つの傾向がある。

(1)新型コロナウイルス感染への対策を口実とする「緊急事態条項」

2020年1月28日、衆議院予算委員会で日本維新の会の馬場伸幸幹事長は「感染症の拡大は良い教本となるはずだ。緊急事態条項について国民の理解を深めていく努力が必要だ」と発言した。それに対して安倍首相は「今後想定される巨大地震や津波等に迅速に対応する観点から憲法に緊急事態をどう位置づけられるのかは大いに議論すべきだ」と答弁した。

1月30日、自民党の伊吹文明元衆議院議長は「〔感染症拡大は〕緊急事態のひとつの例。憲法改正の大きな実験台と考えたほうがいいかもしれない」と発言した。

4月7日、安倍首相は改正特措法に基づく「緊急事態宣言」を発出した。緊急事態宣言の発出に先立ち、安倍首相は衆議院議院運営委員会で、「緊急時に安全を守るため、国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り越えていくべきかを憲法にどう位置づけるかは極めて重要で重く大切な課題だ」と発言した。そして「新型コロナへの対応も踏まえつつ、憲法審査会で与野党の枠を超えた活発な議論が展開されることを期待したい」と語った。日本維新の会の遠藤敬国会対策委員長が「緊急事態に国が国民生活を規制するにあたり、強制力を担保する『緊急事態条項』が不可欠だ」と発言したことに対して安倍首相は賛同し、上記の発言をした。

さらに5月3日、安倍首相はビデオメッセージで自衛隊明記の憲法改正と同時に、憲法改正による緊急事態条項導入の必要性にも言及した。

5月19日、日本維新の会は参議院憲法審査会の林正芳会長に対し、「緊急事態の対応と憲法のあり方」というテーマでの憲法審査会の開催を要求し、5月中に憲法審査会が開催されない場合には「会長不信任動議を出さざるを得ない」としている。

このように安倍首相や自民党、日本維新の会の政治家は、コロナなどの感染症対策のため、憲法に緊急事態条項を明記することが必要という主張を繰り返している。その際、改正特措法に基づく「緊急事態宣言」に対して肯定的な世論状況を受け、改正特措法に基づく「緊急事態宣言」と憲法改正による緊急事態条項の導入が「同一」のものと思わせる議論への便乗がみられる。

(2)コロナ感染下での「国会機能の確保」を口実とする憲法改正論議

4月3日、憲法審査会の新藤義孝与党筆頭幹事は国会内で山花郁夫野党筆頭幹事と会談し、「緊急事態における国会の機能の確保」をテーマに議論すべきと訴えた。憲法56条は本会議の定足数について「総議員の3分の1以上」と定めている。新藤氏は感染が国会議員に広がった事態を想定し、「定足数を欠いても国会の機能を確保し続ける方策」について議論すべきと山花議員にもちかけた。また、憲法45条で衆議院議員、46条で参議院議員の任期が定められているが、法定の任期内に選挙を行うことができない場合の対処についても議論すべきと主張した。新藤氏は記者会見後、「野党が真摯に対応してくれることを望みたい。喫緊の課題であり、いたずらに議論のスタートを遅らせることはできないのではないか」と発言した(『産経新聞』2020年4月3日付〔電子版〕)。

2020年4月14日、自民党の若手で構成される「コロナを機に社会改革プロジェクトチーム」の古川康衆議院議員は、「憲法〔56条〕で規定している「出席」はどういう意味か。もっと議論を深めていくべきだ」と記者団に発言した(〔 〕は飯島補足)。4月23日、公明党の北側憲法調査会長は記者会見で、「仮に国会議員に感染が広がれば定足数の確保も危うくなる可能性がある」と述べ、憲法審査会を開いて、国会の機能を確保するための方策について議論すべきとの認識を示した。

 

【2】コロナ感染を名目とする緊急事態条項導入の問題点

安倍首相などの自民党政治家、日本維新の会の政治家は、コロナ感染への対応のために憲法を改正して緊急事態条項を導入する必要があると主張する。まず問題なのは、(1)コロナ感染症には法律レベルで対応できないのか、(2)安倍自公政権の対応は適切かつ迅速な対応をしてきたのか、という問題がある。

(1)法律で対応できないのか

外国の例を紹介すると、フランスは「公衆衛生緊急事態法」( la loi d’état d’urgence sanitaire )、ドイツは「感染症保護法」( Infektionsschutzgesetz )で対応している。そしてドイツやフランスでは迅速な生活補償、休業補償がなされている。ドイツやフランスの状況を踏まえると、コロナ対策には法律レベルで十分対応できる。

いま日本で求められている対策の例として、PCR検査の拡大、医療体制の充実、マスク・防護服の調達、隔離施設の確保、休業補償、DV対策、精神的支援、学生への学費等の支援、高齢者の健康確保などが挙げられるが、これらの政策は「生命・自由・幸福追求権」(憲法13条)、「生存権」(25条)等を根拠として当然、政府や国会に求められる対策である。

「外出自粛」「営業自粛」を求めた以上、政府の要請で企業等に「特別の犠牲」が生じれば、憲法29条3項の趣旨を踏まえ、企業等への補償を行うことも求められる。「教育を受ける権利」(憲法26条)からは、コロナ感染下でも教育を受ける環境を整える憲法上の義務が政府にはある。緊急事態条項がないと「強制措置」がとれないなどと主張されるが、コロナ対策のために罰則を伴う「強制措置」も「公共の福祉」(憲法13条、22条、29条)等を根拠に憲法でも認められる。

上記のいずれの政策も、必要であれば法律制定で対応でき、憲法改正は必要ない。「憲法改正による緊急事態条項の導入が必要」というのであれば、「災害や感染症対策に必要」などという抽象的な主張ではなく、憲法を改正しなければ対応できないことは何なのか、具体的事例を挙げるべきだ。

(2)安倍自公政権のコロナ対策は適切なのか

そもそも安倍自公政権がコロナ感染に十分対応できないのは憲法のせいなのか。いろいろな実例を挙げることができるが、ここで「マスク」の例を紹介する。

2月12日、菅官房長官は「来週以降には増産体制が整う」と述べ、マスク不足はすぐにでも解消されるかのような発言をした。しかしその後もマスクの品薄状態は変わらず、1週間に1枚しか医師や看護師がマスクを入手できない医療機関もある。安倍首相は4月1日に全世帯に「アベノマスク」を配布する方針を表明した。安倍首相はアベノマスクが配布されたことでマスクの値段が下がったと自画自賛を続けている(たとえば4月28日衆議院予算委員会)。しかし全国で緊急事態宣言が解除された5月25日段階でさえもアベノマスクは8割近くの家に届いておらず、極めて遅いことからすれば、アベノマスクが市販のマスクの価格を下げたという主張には無理がある。

しかも配布されたアベノマスクは使いにくく、多くの医療・介護関係者や市民、安倍内閣の閣僚さえも使用していない。配布されたアベノマスクにはカビが生えていたり虫が入っていたことから、「カビノマスク」「ムシノマスク」と批判され、「カビノマスク」はトレンド入りした。にもかかわらず「アベノマスク」にかかる費用は466億円。経済ジャーナリストの荻原博子氏は「アベノマスクは466億円も使って不良品をばらまいた。そのお金を重篤患者を救う人工呼吸器や、困窮学生の支援に使えば、どれだけ多くの人が助かるか」と批判する(『東京新聞』2020年5月18日付)。

しかも「アベノマスク」は随意契約で、しかもすぐに受注業者を公表しなかったなど、「またしても利権」と多くの国民は疑い、この点でも安倍自公政権への不満は高まっている。たとえばタレントのデヴィ夫人もマスクの発注額は90億円なのに、「その差額、376億円はいずこへ?」と述べた上で、「このようなコロナ・ウイルスの脅威にまで、利権をむさぼる政治家、行政、商社関係者達、天罰下るべき!!」とブログで批判する。「アベノマスク」一つをとっても非常に問題が多い。定額給付金の10万円の支給なども極めて遅く、いまだに多くの市民の手元に届いていない。

ドイツやフランスなどでは迅速な補償などの対応がなされているのに対し、安倍自公政権のコロナ対策はお世辞にも適切かつ迅速とは言えない。マスクの増産や10万円の支給に憲法改正は必要ない。安倍自公政権のコロナ対策が不適切なのは憲法どころか「法律」のせいですらない。自分たちの対応の不適切さ・遅さを棚に上げ、迅速かつ適切な対応をとれない責任を憲法のせいにして憲法改正を主張するのは責任転嫁に他ならない。

 

【3】「同一」的認識への便乗に対して

2020年4月7日に改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づいて発出された「緊急事態宣言」と、憲法改正による「緊急事態条項」は同一のような議論に便乗した改憲論もみられる。ただ、改正特措法に基づく「緊急事態宣言」と憲法改正による「緊急事態条項」の導入は全く「別もの」である。

いま出されている「緊急事態宣言」は法律に基づくものであり、公権力の行為は憲法の範囲内の行為に限定される。例を挙げれば、警察は、「奴隷的拘束及び苦役からの自由」(18条)、「適正手続主義」(憲法31条)や「残虐な刑罰の禁止」(憲法36条)、「令状主義」(憲法33条、35条)など、憲法規定や原則に従って対応しなければならず、警察がいきなり市民の身体を拘束したり暴力をふるうことはできない。医療場所の確保のために内閣や自治体が土地や建物を強制的に収用する際には、憲法に基づいて損失補償(29条3項)が必要となる。政府批判の言動や出版物を禁止することは憲法21条を根拠に許されない。

一方、緊急事態条項は「国家緊急権」を憲法に明記することになる。「国家緊急権」とは、戦争や内乱、自然災害などの際、特定の国家権力(首相や大統領など)が憲法に従わずに行動することを認める権限である。内閣や警察官などの公務員が憲法を遵守しなくても良いという「国家緊急権」を明記する「緊急事態条項」が憲法改正により導入されればどうなるか。

たとえばコロナ感染拡大を名目に、警察官がいきなり市民の身体拘束をすることも許されることになる。日本国憲法では、コロナ対策のために土地や建物を強制的に収用すれば、憲法29条3項を根拠に「損失補償」をしなければならないが、憲法上の緊急事態条項が発動されれば、土地や家屋などを政府が強制的に収用しても、損失補償をしなくても良いとされる可能性がある。「デマの取締」との名目での政府批判の言説を禁じる政令も憲法違反とされない可能性が生じる。緊急事態条項は「緊急事態の際には憲法を遵守しなくても良い」と予め憲法で認める条項であるため、憲法上の緊急事態条項が発動されれば、こうした事態が生じる可能性がある。

要約すれば、いまの改正特措法に基づく「緊急事態宣言」は憲法の範囲内での対応しか内閣や知事などには認められないのに対して、憲法改正による「緊急事態条項」の導入は「憲法に従わないこと」を前もって認めるものであるため、公権力が何をしても「憲法違反」とならない。両者は、名称は「似ている」が、実態は全く別物である。

緊急事態条項に関してはヴァイマール共和国の例にも言及する。ヴァイマール共和国を崩壊に導き、ヒトラー独裁を可能にした主な要因として、ヴァイマール憲法48条の緊急事態条項の存在が指摘される。ヴァイマール憲法の緊急事態条項は1919年から1933年まで250回以上発動された。テロや反乱への対応のために発動されたものもあり、初代大統領エーベルト時代の緊急事態条項の発動には肯定的な見解もある。しかし2代目大統領ヒンデンブルクの時代、パーペン首相やヒトラー首相が緊急事態条項を濫用したことが主な要因となりヴァイマール共和国は崩壊、ナチス独裁国家の誕生に至った。

改正特措法に基づく緊急事態宣言と憲法改正による緊急事態条項は本質的に異なるという点に加え、憲法上の緊急事態条項が必要と考える人も、その負の側面、濫用された際にはナチスの悪用例のように、重大な人権侵害が際限なく生じ、民主主義社会を崩壊させる危険性にも留意する必要がある。

 

【4】「緊急事態における国会機能の確保」を口実とする憲法改正論議について

新藤義孝氏は自己のHPでも、「緊急事態における国会機能の確保」を口実とする憲法改正の必要性を主張する。以下、新藤氏などが主張する「緊急事態における国会機能の確保」についても検討する。

(1)コロナ感染で定足数が満たせない場合を想定しての改憲論議について

コロナ感染拡大により、「総議員の3分の1以上の議員の出席がなければ、議事を開き議決することができない」(憲法56条)との規定の関係で、コロナ感染のため、国会議員の3分の1以上の出席ができない場合の憲法改正論議の必要性を新藤義孝議員は主張する。この対策としては、例外的にZoomやTeamsへの参加を国会の出席として扱うように国会法などを改正するだけで済む。実際、コロナ感染下では企業などにテレワークが推奨されている。国会だけテレワークを認めない理由はない。

実際、EU議会では暫定的措置として7月31日までの臨時的措置でRemote Voting(遠距離投票)が認められている。EU議会の資料を見ると、各国のとりくみも紹介されており、たとえばスペインでは既に下院では2011年改正の議院規則82条、上院では2013年改正による議院規則92条により、妊娠していたり、重大な病気の場合などの特別な状況下ではRemote Votingが認められている。

日本に話を戻すと、オンライン出席が常態化するような法改正などであれば、「国会への出席」の原則を形骸化して問題がある一方、新型コロナウイルス感染で議員が議場に来られないような例外的な場合に限り、「オンライン出席」を認めることは憲法上、許される。憲法には「必ず議場に現存」することが要求されているわけでなく、何を「出席」と見做すかは、多くの議員が議論に十分に参加し、採決できる状況にあるという範囲内で一定程度、各議院の裁量に委ねられる(憲法58条)。オンライン会議をあくまで例外的な状況に限定すれば憲法上、問題とはならない。

それともZoomやTeamsなどでも意思表示ができないほど重体に陥る国会議員が3分の2を超え、Zoomなどで意志表示ができる国会議員が3分の1を割るという状況が生じるのであれば、それは安倍自公政権および国会の感染症対策が大失敗だった結果である。安倍自公政権や国会の対策の失敗を前提とした議論をしようと自民党や公明党は本当に思っているのだろうか?

(2)コロナ感染で国会議員選挙が実施できないことを想定しての改憲論議について

憲法では国会議員の任期が明記されているが(45条、46条)、現在の衆議院議員の任期は2021 年 10 月21日に満了する。それまでに新型コロナウイルス感染が収束せず、憲法で明記された期間に選挙を行うことができない場合、衆議院議員不在の事態が発生するおそれがある。このような場合を想定しての憲法改正論議の必要性も新藤義孝議員は主張する。

ここでもそうだが、2021年10月21日まで、選挙すらできないほど新型コロナ感染の拡大を抑えられないのであれば、安倍自公政権および国会の感染症対策の失敗である。当然、オリンピック開催も無理となろう。安倍自公政権や国会の感染症対策の失敗を前提とした改憲議論をしようと自民党は本当に思っているのか。

仮にこうした状況を想定しても、投票所などでの投票者間の距離の確保、期日前投票の期間を長くするなどの対策を公職選挙法などで決めれば良いだけの話である。投票者間の距離の確保などは今ではスーパーなどでも普通に行われており、法改正すら必要ない。ましてや憲法改正などは全く必要ない。

 

【5】政府・国会が今すべきことは何か

フランスのマクロン大統領は3月16日のテレビ演説で「政府と国会の行動は今後すべて流行との戦いにむけられなければなりません。昼も夜も、気をそらしてはなりません。したがって私は、年金改革をはじめ進行中の改革をすべて停止することを決めました」と発言し、所得補償や休業補償などにも迅速にとりくんだ。フランスと同様に、安倍自公政権が全力を尽くすべきはコロナ対策だろう。

ところが安倍自公政権はどうか。元総合格闘家の高田延彦さんはツイッターで「安倍氏、光速的スピードアクションで〔黒川検事長問題の〕火消し作業。その離れ業を困窮する国民の救済に使ってくださいませ!」と皮肉り、LUNA SEA/X JAPANのSUGIZOさんからも「検察庁法改正案、種子法種苗法、緊急事態条項。どれも恐ろしい。全く賛成できない。けど、せめてそれらの討論は新型コロナウイルス終息後にすべきではないの? いまじゃないでしょう?」と皮肉られているように、安倍自公政権はコロナ感染対策をおざなりにして、「改正検察庁法案」、「改正種苗法案」、挙句の果てには憲法改正論議をしようとし、憲法審査会を開催して改憲手続法を成立させようとしている。

帝国データバンクによれば、2020年の倒産(負債1千万以上、法的整理)件数が新型コロナウイルスの影響で1万件を超すとの見通しとなっている。倒産の集計には入らない自主的な休廃業などは2万5千件の見込みである(『東京新聞』2020年5月20日付)。最悪301万人が失業のおそれがあり、リーマン越えも想定される(『共同通信』2020年5月20日配信〔電子版〕)。失業者の増加は自殺者を増加させ、2021年には自殺者数が4万人以上との指摘もある。

静岡県立大調査「学生の4割が経済的理由で学業継続に不安」(静岡朝日テレビ2020年5月18日)と報道されているように、コロナ感染拡大防止のための「外出自粛要請」「休業要請」の影響はアルバイトしている学生にも及び、退学や入学辞退を検討せざるを得ない学生たちも多く存在する。こうした現状からすれば、安倍自公政権が全力を挙げて取り組むべきは何にもましてコロナ対策であろう。

ところが安倍自公政権は日本の市民が直面している困難に対応しようとしていない。安倍昭恵氏が「補償がないと店がつぶれる」と「小池百合子都知事に怒り」との報道もなされている。小池知事もオリンピックに固執してコロナ対応が後手後手であり、そのことがコロナ感染拡大の一因となったこと、メディア戦略に長けているために適切に対応しているようにみえるものの、実際には実効的な対策をしていない点を批判するのには理由がある。ただ、この報道が事実であればまさに「ギャグ」であり、「怒りの矛先」は小池都知事以上に夫に向けるべきだろう。

その上、安倍自公政権や日本維新の会の政治家たちは上記のような現状を目の当たりにしても「感染症の拡大は良い教本」(日本維新の会の馬場伸幸幹事長)、「憲法改正の大きな実験台」(自民党の伊吹文明元衆議院議長)などとしてコロナ感染を奇貨として憲法改正論議を主張する。憲法改正国民投票ともなれば850億円もの費用が必要になる。850億円もの費用がかかる憲法改正を想定した政治を進めるよりも、「復興資金」「生活保障」「休業補償」「家賃支援」「学業支援」などのため、こうした費用を使うべきだろう。

さらには東日本大震災の復興支援政策も十分ではなく、2020年3月段階でも福島ではなお約4万人が避難生活を送っている。熊本地震、西日本豪雨など、自然災害で被害を受けた市民の復興も不十分である。憲法改正のために850億円もの費用を費やそうとするよりも、自然災害で被害を受けた市民の復興支援、さらにはコロナ感染で大変な状況におかれる市民のために活用すべきだろう。

なんでこんな当たり前のことを安倍自公政権には言い続けなければならないのか、正直、悲しい。しかし安倍自公政権はコロナ対策やさまざまな自然災害の被災者支援に真剣に取り組まず、「不要不急」の憲法改正論議を持ち出し、憲法審査会の開催を主張している。自然災害やコロナ対策に十分な対策をしない安倍首相などの自民党政治家たちが「国民を守るために憲法改正による緊急事態条項が必要」と言っても、本当なのか、私たちは適切に判断する必要がある。

改正検察庁法案の今国会成立が断念に追い込まれたとき、小泉今日子さんは「冷静に誰が何を言い、どんな行動をとるのか見守りたい」とツイートした。「私たちのための政治」が行われるためには、小泉さんの発言のように、政治家がどのような発言や対応をしてきたのか、冷静に受け止める必要がある。さらに小泉今日子さんの発言を紹介すると、「カビノマスク」「ムシノマスク」と批判される「アベノマスク」を踏まえて、「一生懸命やった結果だったら人はいつか許してくれるかもしれない。でも汚らしい嘘や狡(ずる)は絶対に許されない」、「カビだらけのマスクはその汚らしさを具現化したように見えて仕方がない」とツイートしている。

コロナ対策や自然災害の支援に真摯に取り組まない安倍自公政権の現実、コロナ感染拡大のどさくさに紛れてれ「改正検察庁法」「改正種苗法」などを成立させようとする安倍自公政権、コロナ感染拡大を口実に憲法改正論議を進めようとする安倍自公政権のあり方を主権者である私たちは正確に受け止める必要がある。そのうえで、「選挙」や「集会」「デモ」など、さまざまな場面で意志表示をすることが「市民のための政治」が行われるためには必要となる。