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「公選法並びの7項目」をずさんな審議で採決しようとする政治家たちに対して

2020年12月1日

戦争をさせない1000人委員会事務局次長の飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)より、憲法審査会における「改憲手続法」改正案をめぐる動きに関する論考を寄せていただきましたので、掲載します。

「公選法並びの7項目」をずさんな審議で採決しようとする政治家たちに対して

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

2020年11月19日、26日と、衆議院で憲法審査会が開催された。そこで自民党、公明党、日本維新の会などの政治家たちは、「議論は出尽くした」として、「公選法並びの7項目」の「憲法改正国民投票法」(改憲手続法)改正案を直ちに採決するように求めていた。しかし法律家として私は、こうしたずさんな審議で採決を求める政治家たちに強い違和感を持った。

たとえば「公選法並びの7項目」の一つ、「繰延投票の期日の告示の期限の見直し」。現在、改憲手続法では、「天災その他避けることのできない事故により投票を行うことができない」際、繰延投票を行うことになっているが、繰延投票日の告示は少なくとも5日前となっている(71条1項)。5日前という告示期限を公職選挙法に合わせて2日前にしようというのが「繰延投票の期日の告示の期限の見直し」である。公職選挙法でも、もともと繰延投票期日の告知期限は5日前であったが、2016年に改正され、2日前となった。その理由として、「投票日を繰り延べることを選挙人に周知し 投票の機会を保障するために一定の期間が必要であるとも考えられるが、早期に選挙の結果を確定させるという要請に鑑みると、投票日の直後に投票を行うことが可能である場合には、速やかに投票を行うことが適当である場合もある。例えば、たまたま投票日当日の日曜日のみが悪天候等により投票不能であることが前日の土曜日に確実となった場合でも、従前は最短でも次の木曜日にしか繰り延べることができなかったところ、改正により最短で投票日翌日の月曜日に繰り延べることが可能となる」とされている(『衆憲資第96号 日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案(細田博之君外7名提出、第196 回 国会衆法第42号)に関する参考資料 平成30年6月衆議院憲法審査会事務局』46頁)。

こうした公職選挙法改正の考えを憲法改正国民投票にも適用しようとするのが「繰延投票の期日の告示の期限の見直し」である。「選挙」という「人を選ぶ投票」と、憲法改正国民投票という「国の基本法のあり方を決める投票」を同様な思考で対応しようとする根本的誤りが明白に表れている。選挙の際の繰延投票の告示期日を2日前にしたことも正直、私は短くて問題だとは思うが、それでも当選人を早く確定させる必要性があること自体は否定できない。一方、憲法改正国民投票の場合、繰延投票期日の告示期限を短くしなければならない必要性はいったい何なのか。むしろ憲法改正国民投票の場合、国の基本法である憲法のあり方に主権者として意思表示をするものである以上、数日間の迅速性よりも、できる限り多くの主権者の意思表示が可能になる制度設計をすべきであろう。にもかかわらず、公選法に合わせて繰延投票の告示期間を5日前から2日前にしようとする改正改憲手続法案は、主権者が憲法改正に関する意志表示をする機会を失わせる可能性が高くなり、極めて問題である。繰延投票が自然災害などのためにやむを得ずに実施されることに鑑みれば、繰延投票期日の告示期間を5日前から2日前にすることに問題があることはすぐに分かろう。

個人的な体験になるが、私は出張先で大雨のために飛行機が欠航になり、1日、自宅に戻るのが遅くなったことがある。その例を挙げると、繰延投票の告示期間が5日前であれば、1日遅れても十分に投票が可能である。一方、繰延投票の告示期間が2日前であれば、1日帰るのが遅くなっても投票できなくなる可能性がある。とりわけ交通手段の便が良くない地域では、繰延投票期日の告示が2日前であれば、大規模災害の際に鉄道や道路が回復せずに投票できない人が出る可能性が高くなる。こうした状況が生じる可能性があるのに、「利便性の向上」などと主張することは適切なのか。憲法改正という、国の基本法のあり方を変える問題で投票できない人が出るという可能性をこんなに軽視しても良いのだろうか。にもかかわらず、公選法並びの改正改憲手続法案の採決を求める国会議員は、「主権者の権利」である、「憲法改正国民投票の権利」を軽視していると言わざるを得ない。ここでは「繰延投票の期日の告示の期限の見直し」の問題を挙げたが、その他にも「期日前投票の投票時間の弾力的な設定」、投票人名簿の閲覧に係るプライバシー保護など、まだ議論すべき問題がある。自公維の政治家は、憲法審査会の審議に応じない野党議員に対して「職務怠慢」などと批判する。しかし、こうした問題があるにもかかわらず、採決を要求する国会議員はそれこそ「職務怠慢」と言わざるを得ない。

11月26日の憲法審査会を見ていたが、5分以上スマホをいじっている自民党議員、居眠りをしているように見受けられる自民党議員がいた。主権者の権利行使のために改憲手続法を採決すると主張しながら、憲法審査会の場でそのような不誠実な対応をする自民党議員。いま、国民の間に憲法改正論議が盛り上がっていないとの主張に対して、憲法審査会での議論を通じて国民に憲法改正の機運を高める旨の発言をしていた自民党議員もいた。政府がいま全力でとりくむべき課題は憲法改正なのか。2020年10月には自殺者は2000人を超えた。とりわけ女性の自殺者は前年同月と比較して8割以上増加した。こうした状況を生じさせたのはコロナ感染と指摘されている。そうであれば、憲法改正の機運を高める以上にコロナ対策こそ、政治が全力でとりくむべき課題でないのか。2021月10月21日までには必ず衆議院選挙がある。コロナ感染で大変な状況にある市民を顧みず、憲法改正という自らの政治的欲望の実現に躍起になっている自民党、公明党、日本維新の会などの国会議員。私たちのための政治が行われるためには、私たちのことを考えない政治家たちに対し、選挙で主権者意志を示すことが必要になる。