• リスト

「重要土地等調査及び利用規制法案」の問題点

2021年5月14日

戦争をさせない1000人委員会事務局次長の飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)より、「重要土地等調査及び利用規制法案」(土地規制法案)の問題性についての論考を寄せていただきました。

「重要土地等調査及び利用規制法案」の問題点

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

1.はじめに

2021年3月26日、重要土地等調査及び利用規制法案が閣議決定され、5月11日に衆議院で審議入りした(以下「法案」という)。法案の内容を簡潔に紹介すると、内閣総理大臣は「安全保障」の観点から自衛隊や米軍基地などの「重要施設」の敷地の周囲おおむね千メートルの区域内及び国境離島等の区域を「注視区域」(法案5条)、「注視区域」にある「重要施設」が特に重要な施設や国境離島等の場合には「特別注視区域」に指定できる(法案12条)。そして内閣総理大臣は注視区域内にある土地等の利用の状況についての調査や情報提供を自治体や関係者に求めることができる。法案8条では「関係者」にも情報提供が義務付けられ、違反者には30万円の罰金が科される(法案27条)。

さらに「注視区域」や「特別注視区域」で重要施設や離島機能を阻害する行為と内閣総理大臣が判断した行為には禁止等を勧告、さらには禁止命令等を出すことができる(法案9条)。命令に従わない場合には2年以下の懲役、200万円以下の罰金または併科する(法案25条)。「特別注視区域」については土地売買の際には当事者の氏名や使用目的等の「届出」を義務化し、届出義務違反には6月以下の懲役又は100万円の罰金が科される(法案26条)。

2.法案の問題点

(1)際限ない「監視」「規制」の拡大の危険性

自衛隊の準機関紙『朝雲』2021年4月8日付では法案を「有効な監視への第一歩」と評する記事が掲載されている。法案には際限ない「監視」「規制」の拡大の危険性がある。「重要施設」の一内容である「生活関連施設」(法案2条2項3号)は政令で定められ、「重要施設の施設機能または国境離島等の離島機能を阻害する」という要件は首相の主観的判断になる。「重要施設」や「機能を阻害する」などの「要件」は不明確であり、首相の判断次第でどうにでも解釈できる。際限ない拡大解釈・濫用への法的歯止めがない。基地や原発に反対する運動はことごとく「重要施設の施設機能または国境離島等の離島機能を阻害する」と首相に判断され、活動を禁止される危険性がある。

注視区域の指定や利用に関する勧告・命令の際には「土地等利用状況審議会」の意見を聴くことになっているが、土地等利用状況審議会の委員は「内閣総理大臣が任命する」(法案16条1項)など、首相の眼鏡に適う人物が任命する。これでは「政府のお手盛り機関」の可能性がある。

(2)「安全保障」を口実とする多くの市民の監視

上記(1)についてさらに論じる。まず「監視対象」は、法案2条では「重要施設」とされている。法案の「重要施設」とは、自衛隊基地・駐屯地や米軍基地である。これらは約650か所もあり、この周辺約1000メートルの市民は監視対象となる。

そして注意すべきは、監視対象は基地周辺だけではないことである。法案2条2項3号では「重要施設」の中に「生活関連施設」が含まれている。「生活関連施設」とはなにか。「国民保護法施行令」27条では「生活関連等施設」は、最大出力5万キロワット以上の発電所、使用電圧10万ボルト以上の変電所、ガスタンクやガスを精製する工場、水道事業のための取水、貯水、上水のための施設と配水池、1日平均あたりの平均利用者が10万人を超える鉄道や路面電車などの駅、NHKや国内放送を行う放送局の無線施設、ダム等が挙げられている。これらの施設の約1kmが監視対象となる。1日平均あたりの平均利用者が10万人以上利用する鉄道や路面電車などの駅を例に挙げれば、東京23区はほぼ全域が監視対象となる。千葉、埼玉、大阪も広い地域が監視対象となり、愛知では名古屋、金山、栄、大曽根、千種、刈谷、伏見駅が該当する。私が調べた範囲では、京都では京都駅、山科駅、四条駅、竹田駅、福岡県では博多駅、天神駅、姪浜駅、小倉駅、兵庫県では三宮駅、三ノ宮駅、神戸駅、元町駅、明石駅、宝塚駅、新長田町、姫路駅、住吉駅、西宮北口駅、宮城県では仙台駅、北海道では札幌駅、大通駅、そして岡山駅、広島駅、静岡駅周辺約1kmの土地や建物が監視対象となる。法案で監視対象とされるのは自衛隊や在日米軍基地だけではない。

そして監視の手段。「重要施設又は国境離島等の機能を阻害する行為」を判断するに際しては、氏名や住所だけは判断できない。そこで、思想・宗教・団体の所属(例:労働組合に所属)、趣味、家族・婚姻関係、人間関係(例:反政府的言動を繰り返す人物と交流・面識があるか)、職歴(例:政府批判をした本を刊行した出版社に勤務)、渡航履歴(例:韓国に旅行)などの個人情報を内閣総理大臣が収集する必要がある。まさに個人監視が必要になる。法案8条は「関係者」にも情報提供が義務づけているが、これは市民に密告を法的に強制する運用も可能になる。法案をみれば、5月12日に成立したデジタル関連法、いわゆるデジタル監視法案が何を目指しているかも明確になろう。法案は「幸福追求権」や「プライバシーの権利」(憲法13条)、「思想及び良心の自由」(憲法19条)侵害を根底から侵害する危険性がある。こうした心配は「杞憂」だと思われるかもしれない。しかし、たとえば「辺野古」では市民監視のための監視カメラが至る所に設置されたり、与那国島、宮古島、沖縄本島、奄美大島には、市民を監視する「情報保全隊」が既に配備されている。すでに市民監視も着々と進んでいる。

(3)「安全保障」を口実とする憲法上の権利の侵害・はく奪

法案は単に市民を監視するだけではなく、市民の行動を規制・禁止し、土地の強制収容等も可能にする。基地周辺の騒音測定・動画撮影・反対運動なども禁止される可能性がある。「大げさ」と思われるかもしれないが、たとえば与那国駐屯地ではすでに「司令官名」で「許可なく〔駐屯地や施設を〕撮影すること」を禁止する表示が掲示されている。基地周辺の写真撮影の禁止もすでに先行している。法案は市民の「生命・自由・幸福追求権」(憲法13条)や「表現の自由」(憲法21条)を侵害する危険性がある。「注視区域」の経済活動を制約するようにもなれば、「営業の自由」(憲法22条)や「財産権」(憲法29条)の制約の問題も生じよう。

さらには軍事目的による強制的な土地収用を可能にする点で「財産権」侵害・はく奪の危険性がある。航空自衛隊百里基地の誘導路は「くの字」になっている。航空自衛隊が好んで「くの字」の誘導路にしたのではない。基地建設に反対する市民は自衛隊基地建設のための土地売買には応じなかった。そして憲法の平和主義の下、軍事目的による強制的な土地収用は土地収用法で認められなかった。ところが「重要土地等調査及び利用規制法案」23条では、「国による土地等の買取」が合法化されている。法案が成立すれば、「安全保障」を口実とする、国による強制的な土地収容が可能になる。宮古島の保良には弾薬庫の建設が進行している。恐ろしいことに、弾薬庫は近くの集落から200メートルくらいしか離れていない。法案が成立すれば保良集落は強制収容の対象にされることが想定される。普天間基地周辺の土地や家屋など、例えば普天間第2小学校も強制収容の対象になる可能性も生じる。こうして「居住の自由」(憲法22条)が脅かされる危険性も生じる。

(4)日本国憲法の基本原理の空洞化をもたらす危険性

この法案が成立すれば、「安全保障」という視点から市民を監視し、市民的自由・権利を制約・はく奪するのは当然という考えが広まることにつながる可能性がある。その結果、軍事組織による平和創造を否定する「平和主義」、個人の権利・自由を正当な理由なく制約できないという「基本的人権の尊重」、国のあり方を決めるのは国民という「国民主権」という基本理念を空洞化する危険性が生じる。

3.「壊憲」「改憲」をすすめる菅自公政権の政治にどう対応するか

菅自公政権は「基本的人権の尊重」「平和主義」「国民主権」を掘り崩す「壊憲法案」をコロナ感染下の時期に成立させようとしている。すでに成立したデジタル関連法(デジタル監視法)は市民を監視することにつながり、「プライバシーの権利」「個人の尊厳」(憲法13条)を根底から脅かす危険がある。改正国立大学法人法案は、大学内の民主的意志決定を封じて政府の意向を大学に浸透させる危険性がある点で「学問の自由」(憲法23条)を脅かす。重要土地等調査及び利用規制法案は、「軍事的合理性」を優先して「幸福追求権」「プライバシーの権利」(憲法13条)、「表現の自由」(憲法21条)、「居住の自由」「営業の自由」(憲法22条)、「財産権」(憲法29条)を脅かす危険性がある。ひいては「基本的人権の尊重」「平和主義」「国民主権」という、日本国憲法の基本原理の空洞化を一層推し進める危険性をもつ。こうして菅自公政権は憲法理念を突き崩す「壊憲」法案をコロナ禍のどさくさに紛れて成立させようとしている。

さらには「国民投票法」と言われる改正「改憲手続法」法案を今国会で強行採決しようとの動きも見せている。菅首相は5月3日のビデオレターで、今国会で審議中の改憲手続法(憲法改正国民投票法)に関して、「憲法改正論議の最初の一歩として成立を目指さなければならない」と発言した。4月20日には自民党憲法改正推進本部の最高顧問に安倍晋三前首相を据えたことが報じられるなど、自民党は憲法改正を目指す政治をコロナ禍の中でも進めている。

「GoToトラベル」やワクチン接種の遅れ、これだけ新型コロナ感染が拡大しているにもかかわらずオリンピック開催に固執するなど、まともなコロナ対策はしない・できないにもかかわらず、法的強制力によって市民を監視・統制・規制しようとする重要土地等調査及び利用規制法案の成立を目指す菅自公政権。2021年10月21日までには必ず衆議院選挙が行われる。主権者として私たちは、こうした菅自公政権に対して選挙の場でも意志表示をする必要がある。