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「公選法並び7項目」をずさんな審議で採決しようとする自公維などの政治家について(2)

2021年4月26日

戦争をさせない1000人委員会事務局次長の飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)より、前回記事に引き続き、4月22日開催の衆議院憲法審査会や安倍前首相の動きなどを踏まえ、「改憲手続法」改正案についての論評を寄せていただきました。

「公選法並び7項目」をずさんな審議で採決しようとする
自公維などの政治家について(2)

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

1.公選法並び7項目の改憲手続法の成立と憲法改正原案の審理を求める自民、公明、日本維新の会、国民民主党

まず、4月22日の衆議院憲法審査会での発言を紹介する。自民党新藤義孝議員は、「法案に関する質疑には適切な答弁をいただいておりまして、議論はすでに尽きている」と発言した。公明党の北側一雄議員も、「7項目の国民投票改正法案は、国民の投票の利便性を確保する、向上させる公職選挙法並びの改正で、審議も十二分に尽くされており、速やかに採決すべきです。そして、今申し上げましたような今日的な憲法に関するテーマ〔緊急事態における国会の機能の維持、緊急事態における国会議員の任期延長、デジタル技術進展と民主主義、人権保障。北側議員の発言をもとに飯島補足〕について憲法論議を積み重ねるのが私たち憲法審査会の責務」と発言した。日本維新の会の足立康史議員も「今、新型コロナウイルス感染症の蔓延という脅威に対応する中で、緊急事態条項に係る議論を今こそ深める必要があると考えています。そうした観点から、そのためにも国民投票法改正案の速やかな可決、成立を図り、憲法改正原案に関する実質的な審査に入るべきである」と発言した。

彼ら・彼女らの発言に共通するのは、改正改憲手続法案(改正憲法改正国民投票法案)の早期採決である。そして公選法並び7項目の改正改憲手続法案の採決後は、憲法改正原案の審議を自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党は主張している。

2.公選法並び7項目改正案の問題点

(1)法令の「目的」と「手段」を混同する自民党

2021年4月22日の衆議院憲法審査会で議論になった公選法並び7項目の項目は、「期日前投票の弾力的運用」と「繰延投票の告示期間の短縮」である。この問題に関して逢沢一郎議員は「決して投票時間を短くすることに意義を見出そうとしたり、目的としようとするものではない」と答弁し、法案には問題ないとの認識を示した。法案の「目的」と「手段」を混同した議論である。

市民の意志ができる限り反映されることが要請される民主主義国では、投票時間の短縮を意図・目的として法律を改正すべきでないのは当然すぎることである。その上で、法の改正が結果として投票時間の短縮や機会の削減になっていないのかを検証することが憲法審査会で求められる。法律の審議に対しては「目的」と、その目的を達成するための「手段」の適切さの双方の合理性が検討される必要がある。

実際、アメリカの違憲審査では、法令等の「目的」が正当であっても「手段」に合理性がない場合、当該法令等が「憲法違反」などと判示されることも少なくない。そして、たとえば4月15日の憲法審査会で本多平直議員は「投票環境の向上」という「目的」を問題にしたのではなく、「投票環境の向上」という目的達成の「手段」として、公選法並び7項目の改正が適切かどうかを問題にしているのである。そうした質問に対して、逢沢氏のように「目的」が正当だと答弁しても、質問に対する回答になっていない。

公選法並び7項目の改正が「投票環境の向上」「手段」として適切かを答弁することが求められているのに、自民党などはそうした質問に適切に回答していない。「期日前投票の弾力的運用」と「繰延投票の告示期間の短縮」に対する自民党議員などの答弁は法令の「目的」と「手段」を混同した議論であり、「法案に関する質疑には適切な答弁をいただいておりまして」(自民党新藤義孝議員)とは決して言えない。

(2)自治体の裁量に委ねるべき?

また、「期日前投票の弾力的運用」に関しては、「地域の実情を最もよく把握している自治体に裁量を与えたほうが投票機会の拡大につながるわけで、国が一律に縛るべきではない」(新藤義孝議員発言)などとも自民党などは主張する。しかし4月22日の憲法審査会では、今井雅人議員が自己の選挙区で実際に生じた事例を上げ、自治体に裁量を認めることの問題点を指摘した。

簡潔に云えば、役場のあるA地区では4日間、朝8時から夜8時まで期日前投票が可能だったのに対し、B地区では2日間、しかも夜6時までしか期日前投票ができない状況が生じた。いまでこそA地区とB地区は同じ町になっているが、もともとは郡も文化も違い、市町村合併によりA地区とB地区が合併された。そしてA地区とB地区からそれぞれ候補者が出て、地区同士の戦いになった。そうした状況の中、A地区とB地区の期日前投票時間の違いの結果、投票機会の公平性が問題となった事例を紹介している。「選挙管理委員会が意図的にやったとは私は思っていない」と今井議員は指摘しつつも、「自治体に任せたからといって、事情によって、投票の公平性が担保されるとは限らない」と今井議員は発言している。

先に法令の改正等に際しても「目的」と「手段」の双方の合理性が検討されなければならないと私は主張したが、この事例を見れば、「自治体の裁量に委ねる」という「手段」が「投票環境の悪化」と「不公平感」をもたらした可能性が浮上する。自治体による、期日前投票期間の弾力的運用が投票の機会、とりわけ仕事を持つ人の投票の機会を十分に提供できていなかった可能性もあり、極めて重要な問題提起であろう。

にもかかわらず、「議論は尽きた」などとして、自公維国は公選法並び7項目の採決を主張する。このような事例が実際の選挙で生じたとの情報が提供されたのであれば、そうした事実について調査した上で、「投票環境の向上」のために十分に議論するのが国会議員の役割であろう。にもかかわらず、「ご紹介をいただいた事例につきましては詳細を承るものではありませんけれども」(中谷元議員発言)などと発言し、調査も議論もしようとしない。国会議員として、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党は職務怠慢としか言いようがない。

(3)憲法違反の改憲手続法とならないために

4月15日の憲法審査会での道下大樹議員の発言は極めて重要な問題を提起したので、ここでも繰り返し紹介する。道下議員は、自宅療養者が投票できない現状、限られた選管職員では宿泊療養施設における期日前投票、不在者投票記載場所の運営が困難との現状を紹介した上で、「憲法学が専門の大学教授は、投票権が侵害された憲法違反の状態と言えるとした上で、秋までには衆議院選挙が行われるため、公職選挙法の改正を含めた制度の見直しが必要としています。自宅療養者が投票できない状況は、国民投票においても同様です。公職選挙法に合わせるだけでは、この状況は解消できません。公選法の改正による速やかな対応が求められているのはもちろんでありますが、憲法改正国民投票が憲法違反の状態であるというのは放置されるべきではない」と発言した。

2005年、最高裁判所は、外国にいる日本人が投票できない公職選挙法を憲法違反と判示した(民集59巻7号2087頁)。今回の公選法並び7項目の改正を行ったとしても、投票できない者がいるような法改正であれば、そうした改憲手続法は憲法違反の可能性がある。とりあえず公選法並び7項目だけ先に裁決して、CM規制などの問題はあとで議論しようというのが自民党や公明党などの立場であるが、問題があると分かっていながらその議論を後回しにして採決というのは問題があろう。

コロナ感染症拡大を理由に緊急事態条項や国会議員の任期延長などの憲法改正論議を主張するのであれば、コロナ感染のために投票できない人がいるかもしれない公選法や改憲手続法の問題、たとえば郵便投票対象者の拡大などの問題こそ、憲法改正国民投票の前提として議論すべきであろう。

さらには4月15日の憲法審査会で立憲民主党の大串博志議員は「洋上投票や在外投票に関する改正内容についても、通常の選挙じゃなくて憲法改正に係る国民投票だというときに本当に同じように考えていいのか」と問題提起をした。「洋上投票」や「在外投票」でも投票できない人が本当に出ないのか、その点も十分検討する必要があろう。憲法改正国民投票の際、投票できない人がいる制度であれば、そうした改憲手続法は最高裁判所の判例に照らしても憲法違反となる。

3.公選法並び7項目の背後にある安倍前首相の存在

私が誰から、何を聞いたかはここには記さないが、公選法並び7項目の改憲手続法改正の動きが進む背景には、安倍前首相の存在がある。実際、2021年4月20日、自民党憲法改正推進本部で、安倍前首相が自民党憲法改正推進本部の最高顧問に就任したことが報告された。この日の会合では、公選法並び7項目の改正改憲手続法案の早期成立の方針も確認された(『産経新聞』2021年4月20日付電子版)。4月22日には夕刊フジ主催のシンポジウムで、安倍晋三前首相は、国会の憲法審査会で改憲議論が進まない状況は「国会議員として恥ずかしいと思わないといけない」と発言、改憲手続法案の採決も訴えた(『産経新聞』2021年4月23日付電子版)。

よくこんなことを言えたものだと思うのは私だけだろうか。安倍氏は国会で118回も「ウソ」をついた。「ギネス」もののウソの記録を作り、国会審議を1年以上も無駄にさせた安倍氏にこんな発言をする資格があるだろうか。安倍氏の再登板の可能性などに言及する報道もあるが、そうした報道に対してネットでは、「ダメダメ 国会でも『大ウソつき』で虚偽答弁を繰り返し、ちょっとまずくなると『おなかが痛い』と言って政権を2回も投げ出したのによく言うよね。国民は誰も安倍には期待しておりません。金まみれの政治・国民に不利な政策をやり続けた安倍は二度と表舞台に出てこないで欲しい。そんな事を言う前にやる事があるよね。『森友問題』『加計問題』『赤木氏の自殺原因』『松岡農水大臣自殺の要因』『河合夫妻への1億5千万円の金の流れ』『改ざん問題』など書ききれない問題がまだまだある。これらを全て国民が納得しないと許せない。国民へ禊が終わったとは言わせない」、「何が再々登板だよ。それこそ日本にとって悪夢だ。地元有権者を、公的行事を私物化する事で税金でもてなした挙げ句、国会という国権の最高機関で虚偽答弁を118回に渡り繰り返した日本の憲政史上類を見ない汚点を晒した総理大臣が、どの面下げて再々登板だ。本来国会議員でいる事自体あり得ない。厚顔無恥、盗人猛々しい。この言葉程あてはまる政治家は他にはいない」など、安倍氏への批判にあふれている。

国会で118回もウソをつき、「政治と金」など関する説明をしない安倍氏こそ「国会議員として恥ずかしいと思わなければならない」のではないのか。安倍氏がまずすべきことは憲法改正や改憲手続法成立にむけた発言ではなく、「政治と金」にまつわる数々の不正に関して市民に対して納得のいく説明をすることではないのか。

にもかかわらず、安倍前首相、そして安倍氏の側近である新藤義孝氏は改正改憲手続法の採決を進めようとしている。5月6日には自公は強行採決に出るとの情報もある。憲法改正という問題にかかわる法案に関して、まさかそんな乱暴なことはするはずがないと思うかもしれない。しかし安倍氏は首相在任時、十分な議論をせずに法案の強行採決を繰り返してきた。そして公選法並び7項目の改正改憲手続法採決後には、自公維国は憲法改正原案の審議を目指している。つまり、改正改憲手続法案の採決は憲法改正の一里塚となる。「公選法並び7項目」についても憲法審査会での強行採決という、乱暴な手法を私たちは警戒し、そのような手法がとられないように対応することが求められる。