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【壊憲・改憲ウォッチ(25)】「安保3文書」と沖縄

2023年2月22日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】 「沖縄の負担軽減」をうたう「安保3文書」

2022年12月16日、岸田自公政権は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の「安保3文書」を閣議決定しました。

「防衛力整備計画」31ページ、「安保3文書」の一番最後には、「沖縄県を始めとする地元の負担軽減を図るため、在日米軍の兵力態勢見直し等についての具体的措置及び沖縄に関する特別行動委員会(SACO)関連事業については、着実に実施する」と記されています。

「沖縄の負担軽減」と言っていますが、本当でしょうか?

【2】「 安保3文書」と沖縄

結論から言えば、「安保3文書」では沖縄の負担軽減どころか、

① 自衛隊が増強され、
② 軍事訓練が増加し、
③ 戦争遂行拠点が整備され、
④ 実際に戦場にされることで、攻撃対象になる危険性すら想定されています。

① ですが、「防衛力整備計画」11ページでは、「作戦基本部隊に関して、南西地域における防衛体制を強化するため、第15旅団を師団に改編する」とされています。沖縄の陸上自衛隊は「旅団」から「師団」に増強されます。

「防衛力整備計画」11ページでは「スタンド・オフ防衛能力を強化するため、12式地対艦誘導弾能力向上型を装備した地対艦ミサイル部隊を保持するとともに、島嶼防衛用高速滑空弾を装備した部隊、島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)及び極超音速誘導弾を装備した長射程誘導弾部隊を新編する」とされています。

実際、安保3文書を根拠に与那国島ではミサイル部隊が配備されます。

② ですが、「日米一体となった抑止力・対処力の強化の一環として、日頃から、双方の施設等の共同使用の増加、訓練等を通じた日米の部隊の双方の施設等への展開等を進める」(「国家防衛戦略」14ページ)とされています。

【壊憲・改憲ウォッチ(24)】「安保3文書」と軍事訓練」もご覧ください。

③ ですが、「国家防衛戦略」12ページでは、「防衛上のニーズを踏まえ、総合的な防衛体制の強化のための府省横断的な仕組みの下、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化する」とされています(太字強調は筆者。以下同様)。

「防衛力整備計画」9ページでも、「自衛隊の機動展開や国民保護の実効性を高めるために、平素から各種アセット等の運用を適切に行えるよう、政府全体として、特に南西地域における空港・港湾等を整備・強化する施策に取り組むとともに、既存の空港・港湾等を運用基盤として使用するために必要な措置を講じる」とされています。

「国家安全保障戦略」25ページで「武力攻撃より十分に先立って、南西地域を含む住民の迅速な避難を実現すべく、円滑な避難に関する計画の速やかな策定、官民の輸送手段の確保、空港・港湾等の公共インフラの整備と利用調整、様々な種類の避難施設の確保、国際機関との連携等を行う」とのように、空港や港湾の整備は「住民避難」を口実に行われるでしょうが、実際には空港や港湾が軍事訓練や戦争遂行のための軍事拠点として整備されます。

④については「【壊憲・改憲ウォッチ(21)】戦闘で実際に負傷者が出ることを想定する「安保3文書」」で紹介しているように、南西諸島が戦場にされ、自衛隊員の負傷者が増えることが想定されています。

「部隊の救護能力の強化、外傷医療に不可欠な血液・酸素を含む衛生資器材の確保、南西地域の医療拠点の整備」(「国家防衛戦略」28ページ)とのように、南西地域での戦闘で負傷者が出て、治療体制を確保することが明記されています。

「防衛力整備計画」28ページでも、自衛隊那覇病院等の病床の増加・地下化、自衛隊員の身体歴情報の電子化、血液製剤の確保、酸素濃縮装置等の整備を進めるとされています。

「防衛力整備計画」11ページでは「南西地域への機動展開能力を向上させるため、共同の部隊として海上輸送部隊を新編する」とのように、南西地域が戦場にされることが想定されています。

そして極めておそろしいことに、沖縄への「電磁パルス攻撃」すら想定されています。

「防衛力整備計画」10ページでは、「主要な装備品、司令部等を防護し、粘り強く戦う体制を確保するため、主要司令部等の地下化・構造強化・電磁パルス(EMP)攻撃対策、戦闘機用の分散パッド、アラート格納庫のえん体可化、ライフライン多重化等を実施する」とされています。

『読売新聞』2022年12月31日付で紹介されているように、新田原基地(宮崎)、築城基地(福岡)、府中基地(東京)、千歳基地(北海道)とならび、那覇基地(沖縄)も「電磁パルス攻撃」対策が計画されています。

2004年に米議会に提出された専門家委員会の報告書「電磁パルス攻撃の合衆国への脅威評価」では、電磁パルス攻撃で食料や燃料、医薬品などあらゆる物資の欠乏と衛生確保が困難になることから飢餓と疫病は免れず、人口3億人余りの米国で「1年後には90%が死亡」と予測されていることが報じられています(『読売新聞』2017年5月24日付)。

「電磁パルス攻撃」を受ける事態となれば、核兵器を投下される以上に人的犠牲や経済的損失が大きくなる危険性があります。

なお、那覇基地で電磁パルス攻撃対策を強化するだけでなく、那覇駐屯地と与那国駐屯地の司令部の地下化等が計画されていることから、攻撃対象となる危険性が高いと判断されていることが分かります。

【3】口先だけの「負担軽減」

以上、「安保3文書」と沖縄について紹介しました。

「国家防衛戦略」13ページでは「地元に対する説明責任を果たしながら、地元の要望や情勢に応じた調整を実施する」とされていますが、たとえば与那国島では市民が求めているにもかかわらず、ミサイル配備について防衛省の説明会は開催されていません。

「安保3文書」でも「負担軽減」とされていますが、実際には「沖縄の軍事化」が拡大に進められ、「負担増」になります。

「安保3文書」は「言動不一致満載」の政策文書です。

「安保3文書」が本当に市民、とりわけ沖縄の市民のいのちとくらしを守る政策文書か、私たちは冷静に見極める必要があります。