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【壊憲・改憲ウォッチ(29)】自衛隊明記・9条2項削除の改憲論~2023年5月3日の発言を中心に~

2023年5月15日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】 自衛隊明記、9条2項削除の改憲論

2023年5月3日、日本国憲法は施行から76年目を迎えました。

岸田首相は憲法改正賛成派の集会へのビデオメッセージで「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中で、自衛隊を憲法にしっかりと位置づけることは極めて重要なことだと考えます」と自衛隊明記の憲法改正を主張しました。

また、国民民主党の玉木雄一郎代表は東京で開かれた改憲派の集会で、戦力不保持を定めた9条2項について「削除するという案も排除せずに議論すべきだ」、「命をかけて前戦で頑張っている自衛官に報いるため、違憲論を解消できる国防規定を作っていきたい」と述べました(『南日本新聞』2023年5月4日付)。

【壊憲・改憲ウオッチ(28)】自衛隊明記の憲法改正を主張する自民党・公明党などで紹介したように、「自民党たたき台素案」のような憲法改正は無制約の集団的自衛権行使、世界中での自衛隊の武力行使を憲法的に可能にします。

国民民主党の玉木代表が検討を求める9条2項削除の憲法改正が実現すれば、自衛隊はどのような兵器でも保有可能になります。その結果、集団的自衛権だけでなくアフガン戦争やイラク戦争のような、アメリカの戦争にも自衛隊が参戦できる可能性が生じます。

【2】 自衛隊明記の改憲論

「安保法制」制定に際して、何人かの研究者と私は(元)自衛官たちに安保法制についての意見を聞きました。その内容を『安保法制を語る 自衛隊員 NGOからの証言』(現代人文社、2016年)、『自衛隊の存在をどう受けとめるか』(現代人文社、2019年)などで紹介しました。

「安保法制」は、日本が攻撃されてもいないのに、自衛隊が世界中で先に外国を攻撃するのを可能にする法制です。安倍元総理は「自衛隊を憲法に明記しても現状を認めるだけ」と発言してきました。「現状を認める」ということは、世界中での武力行使を可能にする「安保法制」を憲法的に認めることになります。

実際に戦場に行かない(元)幹部自衛官は海外派兵や憲法改正に賛成します。一方、実際に戦場に行かされる一般自衛官の多くは日本防衛に関係ない、海外での戦争で命を落とすことに納得していません。特に私が感じたのは、海外での戦争で自分が死ねば、残された家族、妻や子どもたちがどうなるかを本気で心配していました。

「命を懸けて国を守る自衛隊の皆さんに対して誠に申し訳ない」(2023年4月27日衆議院憲法審査会での玉木雄一郎議員発言)などともっともらしいことを言いますが、こうした発言が口先だけでなく、心から「自衛隊員のため」と思うのであれば、世界中での自衛隊の武力行使を可能にする「安保法制」や「自衛隊明記の憲法改正」には賛成できないはずです。

そもそも【壊憲・改憲ウオッチ(17)】統一協会と濃厚接触の自民党「改憲」で指摘したように、安倍元総理が主張したことにはじまる、自衛隊明記の改憲論は統一協会の影響を受けた可能性を否定できません。

【3】9条2項削除の改憲論

最近、国民民主党の玉木代表は憲法9条2項削除の検討を主張しています。

2023年4月27日の憲法審査会でも玉木代表は以下の発言をしました。

「9条改正を検討するのであれば、やはり情緒論ではなく理論的帰着として、戦力不保持を定めた9条2項を削除するか、あるいは残す場合であっても、少なくとも9条2項の範囲内ではなく、例外として戦力の保持を正面から認める書き方にしないと、違憲論は消えません。

さらに、国防規定が必要というのであれば、自衛隊を戦力として位置づけなくていいのか、この本質的な議論を避けるべきではないと考えます」。

9条2項削除論は、自民党の「たたき台素案」以上に危険です。以下、その問題点を指摘します。

(1)どのような兵器でも保有可能になる危険性
日本国憲法9条2項では 「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定められています。9条2項で「戦力」を持つことが禁じられているため、歴代政府も自衛隊は「戦力に至らない自衛のための必要最小限度の実力」 にすぎないとの立場を採らざるを得ませんでした。 自衛隊の装備は「専守防衛」 に限定され、たとえば 「爆撃機」 「航空母艦」などの保有は憲法上できないとされてきました。しかし憲法9条2項が削除されれば「戦力」の保有が禁止されないため、爆撃機であれ空母であれ、どのような兵器を保有しても「憲法違反」でなくなります。

(2)「侵略戦争」でなければどのような戦争でも参加が可能になる危険性
次に、9条2項が削除されれば、侵略戦争でなければどのような戦争にでも参加できる可能性が生じます。

歴代政府は自衛隊を「自衛のための必要最小限度の実力」とせざるをえなかった結果、自衛隊は「自衛のため」の軍事行為しかできないとの立場を採らざるを得ませんでした。

ところが9条2項が削除され、「戦力」の保持が憲法的にも認められれば、自衛隊を「自衛のための必要最小限度の実力」とする必要もなくなります。その結果、9条1項で禁じられた「自衛戦争」でなければどのような戦争にも参加できるとの解釈を可能にする危険性が生じます。

国民民主党の玉木代表が主張するように9条2項が削除されれば、集団的自衛権だけでなく、アフガニスタン戦争やイラク戦争のような、アメリカの戦争にも参戦できる可能性が生じます。

【4】9条2項削除論の危険性

以上、9条2項削除論の問題を指摘しました。

9条2項を削除すれば、自衛隊がどのような兵器を保有しても憲法上、認められることになります。

さらに「戦力」の保有が認められれば、自衛隊が参加できる戦争の範囲が拡大する可能性があります。

アフガニスタン戦争やイラク戦争の際、憲法9条があるために政府の立場でも「戦闘」に加わることはできませんでしたが、9条2項が削除されれば、こうした戦争で武力行使をしても憲法違反とは言えなくなる危険性があります。