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【壊憲・改憲ウォッチ(40)】「重要経済安保情報保護・活用法案」と憲法

2024年4月9日

飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)

【1】法案の内容

2024年2月27日、岸田自公政権は「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」、いわゆる「重要経済安保情報保護・活用法案」を閣議決定しました。そして衆議院本会議で3月19日、内閣委員会で4月5日に審議入りしたのち、9日、衆議院本会議を通過しています。

この法案の内容を簡単に紹介します。

・「重要経済安保情報」の指定

・他の行政機関や「適合事業者」への「重要経済安保情報」の提供

・重要経済安保情報の取扱者の制限

・重要経済安保情報の取扱者への適正評価

まず、「行政機関の長」は、「重要経済基盤保護情報」で公になっておらず、漏えいが国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため秘匿する必要があると判断するものを「重要経済安保情報」に指定します(法案3条1項)。

一方、「重要経済安保情報」を保有する「行政機関の長」は、日本の安全保障に関する事務を遂行するために必要な場合、「他の行政機関」に「重要経済安保情報」を提供できます(6条1項)。

さらに「重要経済基盤の脆弱性及び重要経済基盤に関する革新的な技術に関する調査及び研究の促進」等のため、「適合事業者」に「重要経済安保情報」を提供できます(10条1項)。

ただ、「重要経済安保情報」を取り扱うためには、法案で定められた事項の「適正評価」で「漏らすおそれがない」と評価されなければなりません(法案12条)。

そして「重要経済安保情報」とされた情報を漏えいした場合、5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金、あるいは両方が科されます(22条1項)。

【2】憲法的評価

(1)経済安保情報領域での軍需産業育成、経済や学問の軍事化の促進

この法律案の正式名称は「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(太字は筆者強調。以下同様)であるように、軍事目的で「経済」や「学問」を活用する法案です。

たとえば法案10条1項で「重要経済基盤の脆弱性及び重要経済基盤に関する革新的な技術に関する調査及び研究の促進」が明記されています。

「研究の促進」とあるように、軍事目的で研究が促進されます。

法案では重要経済安保情報を企業にも提供すると明記されています。

重要経済安保情報を提供された企業はその開発や研究、その情報に基づき商品などを生産する可能性があります。

2024年3月19日、経団連と日本商工会議所の共同提言「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案の早期成立を求める」で、「セキュリティ・クリアランスは、企業が国際共同研究開発等に参加する機会を拡大することにも資する」などと述べています。

自民党もホームページで「産業界の国際的なビジネス機会の確保・拡充にもつながることが期待されます」と記しています。

「重要経済安保情報保護・活用法案」は「戦争する国づくり」という点では共通の目的を持ちつつ、軍事等の情報を秘密にすることに主眼が置かれた「特定秘密保護法」とは異なる性質も持ち、軍事研究の促進や軍需産業の育成・利活用を目指す法案となっています。

「経済」や「学問」を軍事目的で活用し、重要経済安保情報の領域で軍需産業を育成し、経済や学問の軍事化を進める可能性をもつ本法案は、憲法の「平和主義」から正当化できません。

(2)軍事目的からの「経済」や「学問」の規制・侵害も憲法上、正当化できない

一方、「重要経済安保法案」は、「軍事目的」から「経済」や「学問」を規制・侵害する法案になっています。

たとえば行政機関の長が指定した「重要経済安保情報」を取り扱うに際しては、大学研究者も「適性評価」に適合しなければなりません(法案12条)

「経済」や「学問」を軍事目的から国の統制下に置くことにもなる本法案は、「営業の自由」(憲法22条)や「財産権」(憲法29条)、「学問の自由」(憲法23条)を正当な理由なしに規制・侵害する法案です。

(3)「罪刑法定主義」(憲法31条)との関係

重要経済安保情報保護・活用法案は「罪刑法定主義」からも正当化できません。

法案では「重要経済安保情報」と指定された情報を漏らした場合、刑事罰が科せられます。

ただ、刑罰の前提となる「重要経済基盤」(法案2条3項)とは何か、何が「重要経済安保情報」(法案3条1項)か、法案では明らかではありません。

何が犯罪で、どのような刑罰が科せられるのかはあらかじめ法律で明確に定めなければならないという「罪刑法定主義」は近代法の基本原則とされています。

たとえば1789年の「人及び市民の諸権利に関する宣言」、いわゆる「フランス人権宣言8条」でも、「法律は、厳格かつ明白に必要な刑罰でなければ定めてはならない」とされています。

「罪刑法定主義」が明確でない場合、裁判で警察官が「でっち上げ」と証言し、検察官が起訴を取り下げざるを得なくなった大川原化工機事件(逮捕は2020年3月11日、起訴取下げ2021年7月30日)のような、悪質な冤罪事件が再び起こる危険性もあります。。

(4)「プライバシーの権利」「幸福追求権」(憲法13条)侵害の危険性

重要経済安保情報保護・活用法案では、「重要経済安保情報」を取り扱うことができるのは、「適性評価」(法案12条)で認められた者だけになります。

「適正評価」では、重要経済安保情報を取り扱う本人だけでなく、本人の家族なども国から調査されることになります。こうした調査は「プライバシーの権利」をおびやかし、国による監視の危険性を高めます。

(5) 議会制民主主義から

本法案では「重要経済安保情報」を漏らせば5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金、あるいは両方が科されます。

人を犯罪者にする法律を成立させるのであれば、無実の人が犯罪者とされないためにも、国会で丁寧な審議を尽くし、十分精査された法律を成立させるべきです。

ところが自民党・公明党はわずかな審議しかしないのに、4月9日に衆議院本会議で法案を可決しました。

こうした国会運営をみても、自民党・公明党は「戦争する国づくり」には熱心でも、個人の権利や自由を守ろうとしないことが分かると思います。

【3】選挙で意志表示をしましょう

いま、自民党は裏金問題などで国民から大変な不信感を持たれています。また、能登半島沖地震でもいまだに多くの被災者が大変な状況にあります。

にもかかわらず、岸田自公政権はそうした重要な問題に十分に対応していません。

一方、殺傷能力のある武器を外国に輸出することを可能にしようとしたり、本法案のように「戦争する国づくり」のために経済安保領域での経済や学問の活用、軍需産業の育成を可能にする一方、国民監視を強化しようとしています。

さすがにここまでひどいと、自民党・公明党が国民のために政治をしていると考える人は多くないでしょう。

国民のことを考えずに「戦争する国づくり」だけには真剣な自民党・公明党に対して、私たち主権者は選挙で意志表示をする必要があります。