【壊憲・改憲ウォッチ(2)】「データ基本権」(情報自己決定権)について
飯島滋明(名古屋学院大学、憲法学・平和学)
【1】はじめに
「壊憲・改憲ウオッチ(1)」で、自民党・公明党・日本維新の会・国民民主党が主張する改憲案は、
①法律で対応可能:環境権、データ基本権、教育無償化、参議院の合区解消
②危険・無謀:自衛隊明記の憲法改正、緊急事態条項、憲法裁判所、統治機構改革
③税金の無駄遣い:国会議員の任期延長、オンライン出席
と指摘しました。
今回は①のうちの「データ基本権」について紹介します。
【2】「データ基本権」についての改憲案
2020年12月4日、国民民主党が発表した「憲法改正に向けた論点整理」では、「データ基本権」について以下の主張をしています。
(1)憲法13条に関して
・「すべて国民は、個人として尊重される」(憲法13条のいまの条文)
・国民民主党「イメージ条文」:「すべて国民は、サイバー空間を含め、個人として尊重される」(下線部が加筆された部分)
(2)憲法19条に関して
・「思想及び良心の自由は、これを保障する」(憲法19条のいまの条文)
・国民民主党「イメージ条文」:「思想及び良心並びにその形成の自由は、これを保障する」(下線部が加筆された部分)
(3)憲法14条に関して
・「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(憲法14条のいまの条文)
・国民民主党「イメージ条文」:「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は、門地又は遺伝的属性により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(打消線は削除、下線部が加筆された部分)
【3】「データ基本権」の問題点
FacebookやAmazon、Googleなどはたくさんの個人情報を得て、それらを分析することで、本人すら気がつかない本人の好みや行動パターンを把握できるようになりました。そしてこれらの企業等が本人の好みや行動パターンを把握した上での効果的な広告や宣伝文書を送ることで、本人の行動や投票などにも影響を及ぼす事態が生じています。
ケンブリッジ・アナリティカ社は個人情報を集めて投票者の好みや行動パターンなどを特定し、それに基づいた情報を送ることで、2016年のイギリスのEU離脱に関する国民投票、2016年のアメリカ大統領選挙に影響を与えた可能性が指摘されています。その点、国民民主党の問題意識はとても重要で、改憲手続法(憲法改正国民投票法)は、こうした現状に配慮した改正が必須です。
ただ、「データ基本権(=情報自己決定権)」が重要だとしても、憲法を改正して明記すべきものでしょうか? 先に国民民主党の「イメージ条文」を紹介しましたが、憲法13条に関しては「サイバー空間を含め」という文言がなくても当然、サイバー空間でも「個人として尊重」されます。19条に関しては、「思想及び良心の自由」には当然、「その形成の自由」も含まれます。また、憲法14条で列挙されたものはあくまで「例示的列挙」であり、14条で列記されたもの以外でも、合理的理由のない差別は禁止されるというのが最高裁判所の立場であり、憲法学界の通説です。
憲法改正国民投票は総務省の試算でも850億円かかります。これらの文言を入れるために850億円かけるべきでしょうか? 例えば今は、コロナ感染で苦しい状況にある女性や子ども、高齢者の対策などに850億円をかけたほうが良いのではないでしょうか?
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